発達障害のある人は、その特性によって職場でさまざまな苦労を重ねています。
自分には悪気がないし、気をつけてもいるのに、うまくいかないことが多いです。
上司や先輩に叱られると、だんだん職場に行くのも嫌になってしまい、仕事が続かないという悩みをお持ちの人もいるかもしれません。
そこで、本記事では、発達障害の人のための仕事スキルを4つの特性に応じて解説します。
この記事は次のような方におすすめ!
- 職場で発達障害の特性のあるために悩んでいる方
- 将来楽しく働くためにどんな子育てをしたらいいのか不安に思っている親
- 職場にいる発達障害の人にどのように力を発揮させればいいかわからない上司や同僚
この記事は、鈴木慶太先生の書籍「発達障害の人のためのお仕事スキル 楽しく働くためのヒント&セルフアドボカシー」を参考にしています。
特性に応じた対策
なるべく仕事をうまくこなしたい
発達障害には、次の3つの種類があります。
- ASD(自閉スペクトラム症):コミュニケーションの難しさ、こだわりの強さ、感覚の過敏さ
- ADHD(注意欠如多動症):不注意、多動性、衝動性の高さ
- LD(学習障害):読み書き計算などの一つ又は一つ以上が極端に苦手
これに加えて、知的障害も発達障害の一つとされています。
それぞれの特徴について詳しく知りたい方は次の記事を先にお読みください。
人によっては、これらの一つの特徴が強い人もいれば、どれも少しずつ影響を受けている人もいます。
そのため、「知的障害とASDがある人」とか、「ADHDとLDがある人」とか、「知的障害とASDとADHDがある人」がいます。
さらに、例えばADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」などが特徴ですが、それぞれの強さも人によって大きく異なります。
その人の特性に合った対策を考えることが大切になります。
急に頼まれた仕事に対応できない
知的障害のある人だと、就業前に急に仕事を頼まれるとパニックになってしまうことがあります。
予定をぎちぎちに詰めていると、万が一のときに回らなくなってしまうので、仕事の余裕が1割程度くらいあると安心です。
また、ASD傾向もあると、予定を変更することが苦手な方も多いですが、その際には優先順位と段取りを確認できるようにしましょう。
即座に対応した方がいいのか、それまでの仕事を片付ける方が先なのか、ケースバイケースなので、相手に聞くようにすることも大切です。
新しい仕事を始めると今までやっていた仕事をどこまでやっていたのか忘れてしまうこともあるかもしれません。
そうならないように、新しい仕事を始める前に、「どこから再開したら良いか」のメモを残しておく習慣をつけることも大事です。
- 急に頼まれた仕事をすぐに対応せず、まずは優先順位と段取りを確認する。
- 新しい指示や前の仕事を忘れてしまわないよう、「何を支持されたのか」「どこから再開したら良いか」など、メモを残しておく
- 急な依頼に対応できるよう、余裕を持っておく
大切なメールが後回しになる
ADHDで衝動性が高い人だと、毎日何十通も新規メールが入っていても、別の用事があるとそれを先に取り組んでしまい、メールに対応している時間がなくなってしまいます。
その結果、大切なメールであっても気づかなかったり、ついつい後回しにしてしまったりしがちです。
大切なメールかどうかを効率的に処理するためには、「メールの振り分け機能」を使い、重要なものから優先的に確認するクセをつける必要があります。
メールを仕分けるポイントの一つは、そのメールの送信者と受信者に注目することです。
大切なお客さんからのメールなのか、上司や同僚も受信者として宛先に入っているのか、それとも自分だけに来ているメールなのか、それによって重要度や緊急度は変わります。
自分だけに送られたメールは、とにかくすぐにアクションを求められているかどうかを確認しましょう。
同時に締切や期限がないかも確認しましょう。
すぐに対応できない場合や時間がある場合は、速やかに上司や同僚、部下と情報を共有しておけば安心です。
- 送信者・受信者の情報から重要なメールを見分け、優先的に確認する習慣をつけておく
- 何かアクションを求められていないか締切や期限の有無だけでも先に確認する
- 処理漏れを防ぐため、上司・先輩・同僚などに共有しておく
優先順位がわからず混乱してしまう
ASD傾向のある人は、優先順位を考えるのが苦手です。
何か仕事をしているときに、上司や先輩から「至急」とか、「取引先を優先しろ」と言われると、どうしたらいいかわからなくなってしまいがちです。
緊急度と重要度の二つがあるならば、優先するべきは重要度の場合が多いでしょう。
例えば、先輩から「至急」で資料を作るように指示されたことと、取引先から見積資料を請求されたことが同時に起きた場合、取引先の対応を優先しますよね。
上司や同僚から「至急」と依頼された仕事でも、あなたが今抱えている仕事より重要度が高いとは限りません。
「至急」という言葉にすぐに反応せず、冷静に今抱えている仕事と比較して優先順位をつけて作業しましょう。
- 「緊急度」と「重要度」の二つの軸で、優先順位を考える
- 何を優先すべきかわからなくなったら、上司に聞いて上司に決めてもらう
集中力・注意力対策
なるべくミスやうっかりをなくしたい
ここでは、主にADHD傾向のある人の中でも、集中力や注意力が続きにくいタイプの人について対策を説明していきます。
一斉指示だと集中できない
チームでミーティングをしているとき、外の風景や壁のポスターが気になったり、他のことを考えたりしているうちに時間が過ぎてしまうことありませんか?
このように集中力に自信がないのであれば、できるだけ前の方で聞くようにしたり、ただ聞いているのではなく、話している相手を見てメモを取る習慣をつけたりしましょう。
ただ、メモを取ろうとしても要点がわからずに何を書けば良いのかわからなくなってしまうこともあるかもしれません。
そうした場合には、自分が重要と思ったワードだけを書き留めるだけでも良いです。
もしもメモを取れなくても、ミーティングの後で文書で知らされる場合もあるので、そこで改めて確認すれば大丈夫です。
- 集団の後ろにいかず、できるだけ前の方で聞く
- 話している相手を見て、ポイントだけでもメモを取る
- 一斉指示の文書資料を、後から必ず読み返しておく
データ入力にミスが多い
備品の発注をするときに、在庫を確認し、表をエクセルに入力する手順で作業をするとミスが多くなる人がいます。
その場合、ミスの原因を分析し、ミスを防ぐための環境を整えることが重要です。
例えば、メモを見ながらパソコンに数字を打ち込んでいるのであれば、「データホルダー」と呼ばれる書類鋏を使いましょう。
読んでいるメモの行にガイドを当てることで、読み間違いが減ります。
また、文章をチェックする場合は、必ず声に出して読み上げましょう。
「見る力」が弱い人であれば、「ビジョントレーニング」という「見たものを認識する力」を育てるトレーニングを受けることがおすすめです。
自分でできるビジョントレーニングについては書籍も販売されています。
- チェックの際は、必ず文章を読み上げる習慣をつける
- 目の動きが少なくて済むように物理的環境を整える
- データホルダーを使ってみる
- ビジョントレーニングが効果的
メモをとっても上手に活用できない
メモをとってもなくしてしまったり、適当なところに走り書きしてどこに書いたのか分からなくなったりしがちな人がいます。
仕事のメモを取る時には、付箋を使うことをおすすめします。
いつも付箋をポケットに入れておけば安心です。
その付箋は、メモを取ったら手帳やノートに貼る癖をつけましょう。
「いつ」指示を受けたのかがわかるように、スケジュール帳に整理するのも良いでしょう。
もしもメモ自体をポケットに入れたままクリーニングに出してしまうことが怖い場合には、パソコンやスマホを使ってウェブ上にメモを保存しましょう。
Gmailなどの電子メールをメモ代わりに活用すれば、後から検索できるし、必要なときにコピーもできるので便利です。
- チェックの際は、必ず文章を読み上げる習慣をつける
- 目の動きが少なくて済むように物理的環境を整える
- データホルダーを使ってみる
- ビジョントレーニングが効果的
コミュニケーション対策
なるべく人付き合いがうまくなりたい
ここでは、ASD傾向がある人など、相手の気持ちを理解することやその場の空気を読むことが苦手で、コミュニケーションが上手にできないタイプの人について対策を説明していきます。
電話対応が苦手
電話は聞き取りづらいし、相手の表情も見えないし、タイミングも計りにくいので、通常の会話よりも難しく感じる人もいるでしょう。
日頃は、相手の表情や動きなどを見て情報を補いながらコミュニケーションを取るので、純粋に耳から聞く情報だけだと理解しにくくなるのは当たり前です。
仕事の電話は、ポイントさえ押さえられれば、だんだん慣れてくるはずです。
慣れないうちは、「お電話ありがとうございます。○○の田中です。」などの応答例を書いたテンプレートや、フローチャートを手元に準備しておきましょう。
慌てているとメモを取るのを忘れてしまうこともあるので、電話の側にメモを初めから用意しておいて、受信した日時、相手、連絡先、要件、折り返しの有無などを書き取れるようにしておきましょう。
- 電話対応のテンプレート&フローチャートを手元に準備しておく
- 電話の伝言用メモを用意する
- 間違えやすい数字(日時・金額等)は、必ず復唱し、相手に確認する
ミーティングで意見が言えない
ミーティングで何を言えばいいのかわからない人は、もしかすると「会議に出て、話を聞いていればいい」と考えているかもしれません。
メンバーの一人として「会社に貢献する」といった積極性を持つことも意識しましょう。
また、会議で自分のオリジナルの意見を言うことにハードルの高さを感じているのであれば、いいなと思った他の人の意見を覚えておいて、「○○さんに賛成です。」と発言するだけでも、貢献する一歩となります。
ミーティングで、誰が何を話したのかメモを取っておけば、ミーティングでの発言をまとめて覚えておくこともできます。
- 社会人として、ミーティングに参加し、会社に貢献する意識を持つ
- 発言を求められたら、人の意見に同意するだけでもOK
- 「誰」が「何を話したか」わかるようにメモを取る
質問が多すぎて迷惑がられる
「報連相が大事」と言う上司に質問したら、「それぐらいは自分で考えろ」とか「前に説明しただろう」などと言われることがあるかもしれません。
分からないことを質問できるというのは大切な能力ですが、それにも作法があります。
相手が忙しい時に何度も質問するのは迷惑なので、相手の様子や状況を読むことが大切です。
しかし、空気を読もうとするあまり、誰にも相談できなくなってしまっては、あなたの仕事は止まってしまいます。
質問しなければならない場合は、「いつ・誰に」質問するのかを意識しましょう。
タイミングは「自分の仕事の緊急度」と「相手の忙しさ」で判断します。
また、疑問が出るたびに相談するのではなく、一度にまとめて相談したり、メールでまとめて質問するなど、方法を考えましょう。
- 「報告・連絡」と「相談・質問」は自分の都合で行うことを認識する
- 「いつ・誰に」質問するのかを意識し、自分の仕事の緊急度と相手の忙しさで判断する
- まとめて相談する、メールを使うなど相手に負担をかけないように心掛ける
- 忙しい上司に聞く前に、まずは先輩や同僚など、立場が近い人に聞いてみる
自己管理対策
なるべく長く仕事を続けたい
発達障害の人は、さまざまな特性の影響もあって、自分で自分を管理することが上手にできなくて、疲れがたまってしまいがちです。
疲れが溜まり仕事中に眠くなる
夜更かししてスマホを操作していると、疲れが取れず、仕事中に集中できなくなり、作業効率が下がってしまいます。
スマホの使用時間を制限するスマホアプリ「ブロックタイマー」を使うと、使い過ぎを止めることができます。
また、一時的にスマホをしまって取り出せなくする箱も販売されているので、物理的に使えなくするためには効果的です。
社会人になると学生時代に比べ確実に疲れやすくなっています。
仕事をする上でも、生活を充実させる上でも、意識して休むことが重要です。
昼休み時間に少しでも昼寝をすることができれば、午後の作業効率が上がり、ミスは減るはずです。
- 体力を考え、遊ぶ予定や、休日の過ごし方、退社後の飲み会を調整する
- スマホゲームやSNSは制限する、就寝前のスマホは厳禁
- 昼休みの休憩時間はしっかり休むことを意識する
集中しすぎてしまう
集中すると夢中になって休みを取るのを忘れてしまう人がいます。
休憩して体を休めるのも仕事です。
疲れすぎてしまっては、安定した仕事はできません。
仕事中は時計を見るクセをつけたり、タイマーを使って時間管理した項目・分数で知らせてくれます。
音を出さずにバイブレーションで教えてくれる機能もあります。
アップルウォッチだと手元でアラームやタイマーを操作してバイブレーションで気づくことができるので非常に便利です。
それでも集中が続いてしまう人であれば、周囲の人たちに「集中すると時間を忘れてしまうタイプなので、声をかけてください。」と頼んでおきましょう。
- 長く安定して仕事を続けるためにも、休憩をきちんととる
- 時計を見るクセをつけ、「タイマー機能」を使って作業時間を管理する
- 同僚や先輩に相談し、昼休みなどには声をかけてもらえるように頼む
早寝早起きができない
仕事のパフォーマンスを上げるために、自分で体調を管理できるようになる必要があります。
睡眠時間短いと、集中力が弱まったり、凡ミスをやってしまったり、気づかないところで仕事のパフォーマンスが落ちてしまいがちです。
安定した仕事ができるように生活リズムを整えることは、社会人にとって重要です。
スマホの使い過ぎが問題の場合、利用時間を制限できるアプリもあるのでうまく利用すると良いでしょう。
アップルウォッチで睡眠を管理するのもおすすめです。
- 長く安定して仕事を続けるためにも、休憩をきちんととる
- 時計を見るクセをつけ、「タイマー機能」を使って作業時間を管理する
- 同僚や先輩に相談し、昼休みなどには声をかけてもらえるように頼む
まとめ
今回は、発達障害の人のための仕事スキルを4つの特性に応じて解説しました。
発達障害の特性に応じた対策、集中力・注意力対策、コミュニケーション対策、自己管理対策など、あなたに合った対策を取れるように色々と紹介しました。
今回紹介したのは書籍のほんの一部ですので、もっと知りたい方は是非お読みいただければと思います。
漫画で描かれているので、とっても読みやすいですよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント