「お店から連絡が来た」「子どものカバンから見知らぬものが出てきた」——そのとき、頭が真っ白になった、という親御さんは少なくありません。
怒りと動揺が入り混じりながら、「なぜこんなことを」「自分の育て方が悪かったのでは」という気持ちが押し寄せてくる。そして「また繰り返したら」という不安が、ずっと頭から離れない。
この記事では、子どもの万引き・盗み行動の背景にある心理と、親が取るべき対応の考え方を、公認心理師の立場から整理します。責めるためでも、正解を押しつけるためでもありません。今の状況を一緒に考えるための材料として、読み進めていただければと思います。
私は現在、子ども家庭支援センターで子どもの問題行動の支援に携わる公認心理師です。以前は18年間、少年鑑別所で心理技官として、万引き・窃盗を含む多くの非行少年とその家族に関わってきました。現場で見てきた子どもたちの姿を踏まえながら、できるだけわかりやすくお伝えします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 子どもが万引きをしたと知り、どうすればいいかわからない方
- 注意してもまた繰り返してしまい、途方に暮れている方
- 発達障害との関連が気になっている方
- 「自分の育て方が悪かったのでは」と自分を責め続けている方
「まさかうちの子が」その動揺と自責をまず受け止めて

万引きや盗みが発覚したとき、親御さんが感じる感情はさまざまです。
- 「なぜこんなことを……」という怒りと困惑
- 「自分の育て方が悪かったのでは」という強い自責
- 「また繰り返したら」という不安と恐れ
- 「近所や学校に知れたら」という世間体への心配
- 「この子の将来は大丈夫なのか」という焦り
これらはどれも、子どもを大切に思ってきたからこそ生まれる感情です。おかしくも、恥ずかしくもありません。
ただ、子どもの万引き・盗み行動は、親の育て方だけで起きるものではありません。発達特性・心理的な背景・仲間関係・ストレスなど、複数の要因が重なって起きていることがほとんどです。「自分のせいだ」と責め続けることは、冷静な対応を妨げ、必要な支援につながりにくくさせてしまいます。
ゆう動揺するのは当然です。まず深呼吸して、少し落ち着いてから子どもと向き合いましょう。
なぜ子どもは万引き・盗みに及ぶのか 背景にある心理
「わかっているのになぜするのか」——その問いに答えるために、背景にある心理を4つに整理します。
① 欲しい衝動を抑えられない(発達特性との関連)
「欲しい」という衝動が生まれたとき、それをいったん止めて「でもダメだ」と考える力——これを衝動制御と言います。ADHDなどの発達特性がある場合、この衝動制御が育ちにくいことがあり、「頭ではわかっているのに、体が先に動いてしまう」という状態が起きやすくなります。
「悪いことだとわかっていた」と本人が言う場合でも、その場の衝動に勝てなかったということは珍しくありません。これは意志の弱さではなく、脳の発達特性として理解する視点が必要です。発達特性が背景にある場合は、叱るだけでは解決しにくく、専門医への相談も選択肢になります。
② スリル・承認欲求・仲間への同調
思春期の子どもにとって、万引きは「スリルを味わいたい」「友人に認められたい」「みんながやっているから」という動機で起きることがあります。とくに仲間集団の影響は大きく、本人に強い「盗みたい」という欲求がなくても、断れない状況に流されてしまうケースも少なくありません。
この場合、行動そのものより「なぜ断れなかったのか」「その場でどんな気持ちだったか」を丁寧に聞くことが、再発防止の糸口になります。
③ ストレス・SOSのサイン
学校での人間関係・勉強のプレッシャー・家庭内の緊張感——さまざまなストレスを抱えた子どもが、万引きという行動でそれを発散したり、誰かに気づいてほしいというSOSを出していたりすることがあります。
万引きが発覚する直前に、子どもの様子に変化はありませんでしたか?元気がなかった、食欲が落ちた、口数が減った——そうしたサインを振り返ってみることが、背景の理解につながります。
④ 繰り返す場合——窃盗症(クレプトマニア)という状態
何度注意しても繰り返してしまう場合、「窃盗症(クレプトマニア)」という状態が背景にある可能性があります。これは意志の問題ではなく、盗む行為そのものへの衝動が制御できなくなっている心理的な状態であり、専門的な治療が必要なケースです。
子どもへの適用は成人よりかなり少ないですが、繰り返しが続く場合は精神科・心療内科への相談も視野に入れてください。診断名の判断は専門医の領域ですので、「もしかして」と感じた段階でまず相談することをお勧めします。
📝 架空の事例(一般化した例として)
これはあくまで一般化した事例ですが、中学1年のCくんは、コンビニでのお菓子の万引きが発覚しました。親が厳しく叱ると「もうしない」と泣いて謝りましたが、その後も続きました。話を聞くと、Cくんは「取る瞬間のドキドキが好きだった」と言いました。学校では人間関係に悩んでいて、万引きが唯一「自分が何かをできた感覚」を得られる場になっていたようでした。
叱るだけでは止まらなかった理由は、背景にあるストレスと承認欲求が満たされていなかったからでした。
「なぜ繰り返すのか」を一緒に整理してみませんか
一人で考え続けるより、専門家に話すだけで見えてくることがあります。オンラインで、自宅から相談できます。
発覚したとき・繰り返すとき 親の対応の考え方


STEP1 発覚直後——まずお店への対応を
万引きが発覚した場合、まず優先するのはお店への謝罪と商品の弁償です。
💡 お店対応の基本
- 親子でお店に出向き、誠意をもって謝罪する
- 商品を返還するか、代金を弁償する
- 子どもも一緒に頭を下げる場を作る(自分のしたことを実感させるため)
- 警察への通報については、お店の判断に従う
「謝れば終わり」「お金を払えばいい」と思わせないことが大切です。謝罪の場に子どもも同席させることで、行動の重さを実感する機会になります。
STEP2 子どもとの向き合い方——怒鳴っても解決しない理由
お店への対応が済んだら、子どもと話し合う場を設けます。ただし、感情が高ぶった状態で怒鳴りつけることは、逆効果になりやすいのが現実です。
怒鳴られた子どもは、萎縮して「もうしません」と言うか、反発して口を閉ざすかのどちらかになります。どちらも「なぜそうしたのか」の背景を理解する機会を失わせてしまいます。
💡 子どもと話すときのポイント
- 「どういう気持ちでそうしたのか」を最後まで聞く
- 「悪いとわかっていたか」より「何がそうさせたのか」を探る
- 万引きがなぜいけないのかを、冷静に・具体的に伝える
- 「次はどうするか」を一緒に考える
STEP3 繰り返す場合は家庭内だけで抱え込まない
一度話し合っても、また繰り返してしまう——そのとき、親御さんは「なぜまた」という無力感と怒りに直面します。
ただ、繰り返す場合は家庭内の対応だけでは限界があるサインです。外部の専門家の視点を早めに取り入れることが、長期化を防ぐ最善策になります。
⚠️ 外部に相談したいサイン
- 注意しても1〜2ヶ月以内にまた繰り返している
- 盗む対象が家族・親族のお金にまで及んでいる
- 本人が「なぜするのかわからない」と言っている
- 親子の関係が対立・断絶状態になっている
- 発達特性(ADHD等)の診断がある、または疑われる
STEP4 発達特性が背景にある場合
ADHDなどの発達特性が背景にある場合、衝動制御の難しさは「しつけ」や「叱り方」だけでは改善しにくいことがあります。
発達特性そのものへの支援(医療・療育)と、万引き行動への対応を並行して進めることが重要です。「発達障害だから仕方ない」でも「発達障害でも頑張ればできる」でもなく、特性を踏まえた現実的なアプローチが必要です。まずは専門医やスクールカウンセラーに相談してみてください。



「また繰り返した」と感じたら、それは外部の力を借えるタイミングです。
子どもの問題行動全般の考え方については、こちらの記事も参考にしてください。


相談先と次のステップ
万引き・盗み行動への対応は、一人で抱え込むより早めに専門家の視点を取り入れることが、解決の近道です。
📋 主な相談先
- 法務少年支援センター:少年鑑別所に併設された相談機関。万引き・非行など問題行動への専門的な相談が可能です。心理技官・法務教官が対応し、子どもと直接面談することもできます。「まだそこまでじゃない」と思わず、早めに使ってほしい窓口です
- 子ども家庭支援センター(市区町村):親御さんだけで相談できます。問題行動全般に対応しています
- スクールカウンセラー:学校内の心理職。学校での子どもの様子も踏まえて相談できます
- 児童相談所:18歳未満全般が対象。深刻なケースや繰り返しが続く場合に(0120-189-783)
- 精神科・心療内科:繰り返しが止まらない・発達特性が疑われる場合。窃盗症の診断・治療も行っています
- オンラインカウンセリング:まず親御さん自身の気持ちを整理したいときに。自宅から相談できます
特殊詐欺への加担など、より深刻な非行に発展するリスクについては、こちらの記事も参考にしてください。


まとめ
- 動揺・自責・怒り……どの感情も当然。ただし感情のまま子どもに向き合うと逆効果になりやすい
- 万引き・盗みの背景は衝動制御の難しさ・スリル・ストレス・SOSなど複合的な要因がある
- 発達特性(ADHD等)が背景にある場合、叱るだけでは解決しにくい
- 繰り返す場合は家庭内だけで抱え込まないことが大切。早めに外部の視点を
- 法務少年支援センターは非行・問題行動の専門機関。「まだそこまでじゃない」段階でも相談できる
- 親が追い詰められる前に、自分自身のケアも忘れずに
悩みながらも向き合おうとしていること、それ自体が子どもへの大切な関わりです。
ひとりで抱えず、まず話してみませんか
今すぐ解決しなくていい。気持ちを整理するだけでも、次の一手が見えてきます。自宅から、オンラインで相談できます。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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