子どもが「いじめられている」と打ち明けてきたとき、あるいはその様子に気づいたとき——あなたの心には、怒り、悲しみ、そして「なぜもっと早く気づけなかったのか」という自責の気持ちが一気に押し寄せてきたと思います。
何から手をつければいいのか、学校にどう伝えればいいのか、子どもにどんな言葉をかければいいのか——わからないことばかりで、頭が真っ白になっている方もいるでしょう。
この記事では、子どもの心を守るための関わり方と、学校との連携の進め方を整理します。
私は公認心理師として子ども家庭支援センターに勤務し、発達障害・不登校・問題行動の相談を日々受けています。いじめ被害に関する保護者からの相談にも、これまで数多く向き合ってきました。一緒に、今できることを整理していきましょう。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 子どもがいじめられていることを知り、何をすべきか分からず焦っている方
- 子どもの心のケアと学校への対応、両方をどう進めればいいか迷っている方
- 「もっと早く気づけたら」と自分を責めている方
- 学校とどう連携すればいいか知りたい方
まず子どもに伝えたい、たった一つのこと

ゆう「あなたは守られている」——これがすべての土台です
いじめの内容を詳しく聞き出すことよりも、対策を考えることよりも、まず最初に届けたい言葉があります。
「あなたは悪くない」「あなたを必ず守る」——この2つです。
子どもがいじめを打ち明けるとき、多くの子は「親に心配をかけたくない」「言ったらもっとひどくなるかもしれない」「自分にも悪いところがあるのかもしれない」という思いを抱えています。打ち明けるまでに、想像以上の時間と勇気が必要だったはずです。
だからこそ、最初の反応が重要です。話の真偽を確かめようとしたり、「なぜ早く言わなかったの」と問い詰めたりすることは、たとえ悪意がなくても、子どもには「責められている」と伝わってしまうことがあります。
子どもが話し終わらないうちに助言したり、子ども自身に落ち度がなかったかを確認したりするのも、できるだけ避けたい対応です。話を最後まで、無条件に受け止める姿勢が、子どもの安心感につながります。
🔑 最初に伝えたい言葉の例
- 「話してくれてありがとう」
- 「あなたは悪くない」
- 「私はあなたの味方だよ」
- 「一緒に考えていこう」
「あなたにも原因があるのでは」という言葉は、絶対に避けてください。服装や態度、性格などが理由として挙げられることがあっても、それはいじめを正当化する理由にはなりません。いじめの責任は、常にいじめる側にあります。
また、子どもが「親に話したことがバレたら、もっといじめられるかもしれない」と心配している場合もあります。その不安にも丁寧に向き合い、「学校に伝えるときは、あなたの気持ちも一緒に考えながら進めるからね」と伝えることで、子どもの安心感が増していきます。
いじめが子どもの心に与える影響——知っておきたいこと
いじめ被害は、子どもの自己肯定感に大きな影響を与えることが、研究でも示されています。
📄 研究の紹介
伊藤美奈子(2017)の研究(教育心理学研究65巻1号, DOI: 10.5926/jjep.65.26)は、小中高生9,168人を対象とした大規模調査です。いじめ被害者は自尊感情が低く情緒不安定な特徴を持つことが示されており、特にネット上のいじめ・集団無視・金品をたかられる被害では、不登校や希死念慮につながる辛さが強く経験されることが報告されています。
この研究結果から、いじめの「種類」によって、子どもが受けるダメージの大きさが異なることが見えてきます。身体的な暴力だけでなく、無視・仲間外れ・ネットでの陰口なども、子どもにとって深刻な苦痛になります。
「殴られていないから大丈夫」「ただからかわれているだけ」と本人が言っていても、その言葉をそのまま安心材料にしないでください。研究では、言葉や関係性によるいじめのほうが、目に見えにくいぶん長く深く心に残ることがあるとも指摘されています。
💬 一般化した事例
これはあくまで一般化した事例ですが——中学1年のEさんは、クラスのグループから急に連絡を返されなくなり、学校でも目を合わせてもらえなくなりました。「殴られたわけじゃないから大丈夫」と本人は言っていましたが、次第に朝の準備が遅くなり、休む日が増えていきました。直接的な暴力がなくても、心の苦しさは確かにそこにありました。
表情の変化、食欲、眠れているか、登校前の様子、持ち物の状態——日常の小さな変化の積み重ねが、子どもの心のサインになります。「いつもと違う」と感じたときは、その違和感を大切にしてください。
いじめの「役割」は固定ではない——知っておきたい視点





立場が変わることもある、と知っておくだけで十分です
もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。いじめにおける「被害者」と「加害者」の立場は、必ずしも固定されたものではない、ということです。
📄 研究の紹介
前述の伊藤美奈子(2017)の調査では、いじめの加害役割と被害役割は固定したものではないことが明らかになっています。また、クラスメートをからかうことを「悪くない」「おもしろい」と感じる傾向は、年齢が上がるとともに増えること、その傾向はいじめ加害の経験を持つ子どもに、より多く見られることもわかっています。
これは、決して「あなたの子もいつか加害者になるかもしれない」と心配していただきたいお話ではありません。ただ、被害を受けた子どもの心がつらさでいっぱいになっているとき、そのつらさが別の誰かへの言動として現れることもある、という人間の心の仕組みを知っておくことには意味があります。
たとえば、学校でつらい思いをしている子どもが、家庭できょうだいに強く当たってしまうことがあります。あるいは、いじめられている悔しさが、別の場面で誰かをからかう言動として出てしまうこともあります。
もしお子さんに、被害を受けた経験と同時に、誰かに強く当たってしまうような様子が見られたとしても、それは「悪い子」になったわけではなく、心の中のつらさの処理が追いついていないサインかもしれません。その場合も、責めるのではなく、「今、しんどいことが多いんだね」と気持ちを受け止める姿勢が助けになります。
もしそうした様子が見られたときは、一人で判断せず、学校のスクールカウンセラーや子ども家庭支援センターに相談しながら、子どもの心の状態を一緒に整理していくことをお勧めします。
子どもの心のケア、専門家と一緒に考えてみませんか
いじめ被害後の不安や対応について、オンラインで相談できます
学校との連携の進め方



学校とは「対立」せず「チーム」として動きましょう
子どもの心のケアと並行して、学校との連携も必要になります。いじめ防止対策推進法では、学校はいじめの相談を受けた場合、速やかに事実確認を行う義務があると定められています。
STEP1 事実を記録する
「いつ」「どこで」「誰から」「何をされたか」を、できるだけ具体的に記録しておきます。子どもから聞いた内容、本人の様子の変化、SNS上のやりとりのスクリーンショットなどを残しておくと、学校との話し合いの際に役立ちます。
STEP2 学校に伝える
まずは担任、もしくはスクールカウンセラーに連絡します。感情的に伝えると、学校側との関係が対立的になりやすいため、記録した事実を整理した上で、落ち着いたトーンで伝えることをお勧めします。
学校に伝える前に、子ども自身に「学校に話してもいい?」と確認しておくことも大切です。子どもが「もっといじめられるかもしれない」と恐れている場合は、その不安にも寄り添いながら進めましょう。
STEP3 対応の進捗を確認する
学校に伝えた後、「どのような対応をしたか」「いつ頃結果が出るか」を確認しましょう。学校側からの報告が滞っている場合は、再度連絡を取り、状況を共有してもらうことが必要です。
STEP4 学校の対応に納得できないとき
⚠️ 学校以外に相談できる窓口
- 教育委員会(学校の対応に納得できない場合)
- 法務省の人権相談窓口(無料・秘密厳守)
- 子ども家庭支援センター
- 「いじめ重大事態」に該当する場合、調査委員会の設置や第三者の関与を求められる場合もあります
大切にすべきは「その学校に通い続けること」ではなく、子どもが安心して教育を受けられる環境そのものです。状況によっては、転校や教育支援センターの利用なども選択肢として考えられます。
親自身の心も、大切にしてください


子どものいじめ被害に向き合う中で、親自身も大きなストレスを抱えます。「もっと早く気づくべきだった」という自責、学校への怒り、将来への不安——これらの感情は、すべて自然なものです。
親が安定していることは、子どもにとって何よりの安心材料になります。けれど、「安定していなければ」と気負う必要はありません。動揺すること自体は自然な反応であり、その動揺を一人だけで処理しようとしないことが何より大切です。
配偶者や信頼できる人に話すことも一つの方法ですが、身近な人には話しづらい、あるいは身近な人も一緒に動揺してしまうという場合もあると思います。そうしたときは、専門的な立場から話を聞いてくれる相談先を活用することをお勧めします。
📋 親自身が相談できる窓口
- 子ども家庭支援センター(各市区町村)——子どもへの対応だけでなく、保護者自身の気持ちの整理についても無料で相談できます。「まず話を聞いてほしい」という段階でも利用しやすい窓口です
- 教育センター・教育相談所——学校とは別の立場から、教育的な視点でのアドバイスを受けられます。学校との関係に悩んだときの相談先としても適しています
- オンラインカウンセリング——日中は仕事で時間が取りにくい共働きのご家庭でも、夜間や合間の時間にスマホから相談できます。気持ちが落ち着かないときに、誰かに話を聞いてもらうだけでも整理が進むことがあります
「相談するほどのことだろうか」と迷う必要はありません。深刻化する前の段階で話を聞いてもらうことは、子どもにとっても、親自身にとっても、回復への近道になります。
共働きで時間に限りがある中、すべてを完璧にこなすことはできません。それでも、子どもが「親は自分の味方だ」と感じられる関わりを積み重ねていくことが、回復への大きな力になります。そしてそのためには、親自身が一人で抱え込まず、適切な支えを得ていることが土台になります。
まとめ
📝 この記事のまとめ
- 最初に伝えるべきは「あなたは悪くない」「必ず守る」という言葉
- いじめの責任は常に加害側にあり、被害者に原因を求めてはいけない
- 無視や仲間外れ、ネットいじめも、身体的暴力と同じくらい深刻な苦痛になりうる
- いじめの「被害」と「加害」の役割は固定ではなく、つらさが別の場面での言動に表れることもある
- 学校とは対立せず「チーム」として連携する——記録・連絡・進捗確認・必要に応じた他機関への相談
- 親自身の心のケアも大切——子ども家庭支援センター・教育センター・オンラインカウンセリングなどを活用する
子どもがいじめられていると知ったとき、親の心は大きく揺れます。でも、その動揺こそが、子どもを大切に思う気持ちの証でもあります。
一人で全部抱えようとしなくていいんです。一緒に、子どもを守る方法を考えていきましょう。
関連記事






いじめ被害について、専門家に話してみませんか
公認心理師・臨床心理士などの専門家に、スマホから相談できます


元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

コメント