「また叩いてしまった……」
後悔と自己嫌悪の中で、この記事を開いてくれた方がいると思います。そのことを、まず受け止めたいと思います。
叩きたくて叩いている親は、ほとんどいません。余裕がなかった、言葉が届かなかった、気がついたら手が出ていた——そういう状況の積み重ねの中で起きていることがほとんどです。
ただ、「叩いてしまった」という事実と向き合うことは、子どものためにも、親自身のためにも、必要なことです。この記事では、体罰が子どもに与える影響を正直にお伝えしながら、今からできることを一緒に考えます。責めるためではありません。次の一歩を考えるために、読んでください。
私は公認心理師として子ども家庭支援センターに勤務し、発達障害・不登校・問題行動の相談を日々受けています。以前の職場では、体罰を受けて育った少年たちと長く向き合ってきました。「親に怒られて当たり前だと思っていた」という言葉を、何度聞いたかわかりません。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 子どもを叩いてしまい、自分を責めている方
- しつけのつもりだったが、これでいいのか不安になっている方
- 体罰が子どもの将来にどんな影響を与えるか知りたい方
- 叩かない子育てに変えたいが、どうすればいいかわからない方
国内調査が示したこと——体罰と非行の関係

ゆうまず、データをお伝えします。
2024年12月から2025年1月にかけて、京都大学を含む研究グループが関西地方の5つの中学校(1〜3年生)を対象に調査を実施しました。有効回答数は1,820名。国際非行研究プロジェクトの一環として行われたこの調査の結果が、2026年5月にJapan Times紙で報道されました。
📄 研究の主な結果
- 回答した1,820名のうち27.4%が保護者からの暴力経験(叩く・突き飛ばすなど)があったと回答
- 物で打たれたり強く殴られるなどより重篤な暴力を経験した子どもは14.2%
- 経済的に余裕のない家庭では暴力経験率が41.8%と、余裕のある家庭(26.3%)を大きく上回った
- 保護者から体罰を受けた子どもは、そうでない子どもと比べて非行に関わる可能性が高いという関連が確認された
研究グループの京都大学・岡部卓教授は「家庭支援の充実が非行抑制につながる」と述べています。
4人に1人以上の中学生が体罰を経験している——という数字は、決して他人事ではありません。そして、体罰を受けた子どもの非行リスクが高まるという結果は、「しつけのつもり」の行為が、子どもの将来に影響を与える可能性があることを示しています。
ただし、研究が示しているのは「体罰が直接的に非行を引き起こす」という単純な因果関係ではありません。体罰が子どもの攻撃性や反社会的行動のリスクを高める「背景要因」として機能している可能性です。この違いは重要です。
なぜ体罰が非行につながるのか——心理的なメカニズム



データの背景にある心理を知ることが大切です
体罰が子どもの行動に影響を与えるメカニズムは、複数の経路から説明されています。
① 暴力が「問題解決の手段」として学習される
子どもは大人の行動を観察して学習します。「怒りを感じたとき、力で相手を制圧する」という行動を、身近な大人から繰り返し見ることで、それが問題解決の一つの方法として学習されてしまうことがあります。
友達とのトラブルで手が出る、気に入らないことがあると物に当たる——こうした行動は、家庭での体験が外に現れているケースがあります。厚生労働省の資料でも「親が子どもを叩いたり怒鳴ったりすると、子どもは他人に対して同じようなことをしてしまうかもしれない」と明記されています。
② 親への恐怖が「相談できない」関係を作る
体罰を受けた子どもは、親に対して恐怖や緊張を感じるようになることがあります。その結果、「学校でつらいことがあっても言えない」「友人関係で困っても相談できない」という状況が生まれやすくなります。
悩みを抱えたまま親に相談できない子どもは、仲間に発散口を求めることがあります。それが非行仲間との関係につながるケースを、支援の現場で何度も見てきました。
③ 自己評価の低下と「どうせ自分は」という感覚
繰り返し叩かれる経験は、子どもの自尊感情を傷つけます。「自分はダメな子だ」「どうせ自分は」という感覚が積み重なると、将来や自分の行動への責任感が薄れやすくなります。
非行に至る少年の多くは、自己評価が低く、将来への見通しが持ちにくい状態にあります。体罰が積み重なる環境は、そうした状態を作りやすくします。
④ 経済的困難との重なり
今回の調査では、経済的に余裕のない家庭での体罰経験率が41.8%と、余裕のある家庭の26.3%を大幅に上回りました。これは「貧しい家庭の親が悪い」という話ではなく、余裕のなさ・孤立・ストレスが体罰のリスクを高めるという構造的な問題を示しています。
親が追い詰められているとき、子どもへの対応が荒くなる——これは個人の問題というより、社会的な支援が届いていない問題でもあります。
💬 一般化した事例
これはあくまで一般化した事例ですが——中学1年のPくんは、幼いころから父親に叩かれることが多くありました。Pくん自身は「自分が悪いから」と思っていました。中学に入ってから、万引きや深夜徘徊に関わるようになりました。面接で話を聞くと、「家に帰りたくない」「でも、どこにも行くところがない」という言葉が出てきました。仲間との夜間行動が「逃げ場」になっていたのです。
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「叩いてしまった」後に、親ができること





後悔は変化のエネルギーになります。
ここまで読んで、さらに自分を責めてしまった方もいるかもしれません。でも、後悔があること、変わりたいと思っていること——それ自体が、次に進む力です。
「一度叩いたら、もう取り返しがつかない」ということはありません。大切なのは、今から何をするかです。
① まず子どもに謝る
体罰の後に謝ることは、「親が自分の行動を間違いだと認めた」というメッセージになります。「叩いてごめんね。あれは私が間違っていた」と、言い訳なく伝えることが、子どもとの信頼を少し取り戻す第一歩になります。
謝ることは、親の権威を失うことではありません。むしろ「間違いを認める大人」を子どもに見せることが、子ども自身の誠実さを育てます。
② 「なぜ叩いてしまうのか」を自分に問う
叩いてしまう状況には、多くの場合パターンがあります。疲れているとき、余裕がないとき、特定の言葉や行動に反応してしまうとき——そのパターンを知ることが、次に止める力になります。
🔑 自分に問いかけてみてください
- どんな状況のときに手が出やすいか
- その直前、自分はどんな感情を感じていたか
- 子ども以外のストレスを抱えていないか
- 誰かに話を聞いてもらえる場所があるか
③ 「その場を離れる」を選択肢に持つ
叩きそうになったとき、「一度その場を離れる」という選択肢を持っておくことは、有効な手段の一つです。「今は話せない。少し落ち着いてから話しましょう」と子どもに伝えて、別の部屋に行く。これは「逃げること」ではなく、「暴力の連鎖を止める行動」です。
④ 親自身が支援を求める
体罰を繰り返してしまう背景には、親自身のしんどさがあることがほとんどです。孤立、余裕のなさ、自分自身が叩かれて育った経験、夫婦関係のストレス——こうした問題は、親一人で解決しようとしても限界があります。
📋 親が使える相談先
- 子ども家庭支援センター(各市区町村)——子どもへの関わり方だけでなく、親自身のしんどさについても相談できます。無料で、保護者だけで相談することも可能です
- 児童相談所(全国共通ダイヤル:189)——「虐待の通告先」というイメージがありますが、「相談窓口」としても使えます。「叩いてしまいそう、やめたい」という相談も受け付けています
- 女性相談センター・配偶者暴力支援センター——夫婦関係のストレスやDV、孤立感が背景にある場合の相談先として
- オンラインカウンセリング——誰にも言えないしんどさを、夜間にスマホから話せます。「こんなことを相談していいのか」という段階から受け止めてもらえます
「相談したら子どもを取り上げられる」という不安から、相談をためらう親御さんがいます。ただ、相談と通告は別のものです。「やめたい、変わりたい」という親が支援につながることは、子どもを守る最も確実な方法の一つです。
まとめ
📝 この記事のまとめ
- 関西5中学・1,820名の国内調査で、体罰を受けた子どもは非行に関わりやすいという関連が確認された
- 体罰が非行につながるメカニズムは「暴力の学習」「相談できない親子関係」「自尊感情の低下」「孤立」
- 経済的な余裕のなさが体罰リスクを高めるという結果は、個人の問題ではなく社会的支援の問題でもある
- 叩いてしまった後にできることは「子どもへの謝罪」「自分のパターンを知る」「その場を離れる選択肢を持つ」「支援を求める」
- 子ども家庭支援センター・児童相談所(189)・オンラインカウンセリングなど、親自身が使える相談先がある
- 「やめたい、変わりたい」という気持ちがあるなら、それは変化の始まりです
この記事を最後まで読んでくれたこと——それだけで、あなたは「変わりたい」と思っている親です。
自分を責めることに使っているエネルギーを、少しずつ「次に何をするか」に向けていきましょう。一人で全部抱えなくていいんです。一緒に考えましょう。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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