「何度言っても約束を守ってくれない」——そのたびにイライラして、また叱って、また守られなくて。気がついたら「あの子は信用できない」「本当にダメな子だ」とまで感じてしまっていた、という方もいると思います。
そして、もしかしたらこんな言葉を口にしたことがあるかもしれません。「なんで何度言ってもわからないの」「やる気がないんじゃないの」——。
でも少し待ってください。「守ろうとしていないから守れない」と「守りたいのに守れない」では、対応がまったく違います。この違いを知ることが、繰り返すイライラの悪循環から抜け出す第一歩になります。
私は公認心理師として子ども家庭支援センターに勤務し、発達障害・不登校・問題行動の相談を日々受けています。「何度言っても約束が守れない」という相談は、非常に多く寄せられるテーマの一つです。一緒に整理していきましょう。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 何度注意しても同じことを繰り返し、約束が守られない状況が続いている方
- 「やる気がないだけ」「ふざけている」と感じながらも、どこか引っかかっている方
- 叱ることに疲れてきた方
- 発達特性が関係しているのかもと感じている方
「守りたいのに守れない」と「守ろうとしていない」は違う

ゆうこの違いを知るだけで、見え方が変わります
約束が守れない状態には、大きく分けて2つのパターンがあります。
🔑 2つのパターンの違い
- パターンA「守る気がない」——約束の重みを軽く見ている、面倒だと思っている、バレなければいいと思っている。この場合は動機づけや関係性のアプローチが必要
- パターンB「守りたいのに守れない」——約束したときは本当にそのつもりだった。でも衝動が勝った、忘れた、見通しが立てられなかった。この場合は「意志の問題」ではなく、脳の実行機能や発達特性が関わっている可能性がある
繰り返す約束破りに悩む家庭では、パターンBが背景にあることが珍しくありません。「謝るのに繰り返す」「その場では約束するのにすぐ忘れる」「叱られてもまた同じことをする」という状況は、パターンBのサインであることが多いのです。
もちろん、どちらのパターンかを白黒つけることが目的ではありません。ただ、「守らないのは意地悪だから」という前提で関わり続けると、パターンBの子どもには対応がまったく合わないまま消耗が続いてしまいます。
なぜ繰り返すのか——実行機能と発達特性の視点



「意志が弱い」のではなく「脳の機能の問題」かもしれません
「約束を守る」という行為は、実はかなり高度な脳の働きを必要とします。
「約束を覚えておく」「衝動的な欲求を抑える」「先のことを見通して今の行動を調整する」——これらをまとめて「実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)」と呼びます。脳の前頭前野が担う機能で、この実行機能は思春期を通じて長い時間をかけて発達する途上にあります。
ADHDの特性が関わっている場合
ADHD(注意欠如・多動症)の特性がある子どもは、この実行機能に困難を抱えやすいとされています。
💬 ADHDの特性と約束が守れない関係
- ワーキングメモリの弱さ—「ゲームは1時間」と約束したのに、夢中になっているうちに頭から抜けてしまう
- 衝動性—「後でやろう」と思っていたのに、目の前の刺激に引き寄せられる。止める力より動く力が勝ってしまう
- 時間感覚のずれ—「あと少し」のつもりが実際は1時間経っている。時間を体感的に把握するのが苦手
- 先を見通す力の弱さ—「約束を破ったらどうなるか」を想像しながら行動を調整するのが難しい
これは「気合が足りない」「反省が足りない」という話ではありません。脳の働き方の違いによるものであり、叱っても改善しにくいのはそのためです。
発達特性がない場合でも起きること
発達特性が明確でない子どもでも、次のような状況では約束が守れなくなりやすいことがあります。
💬 一般化した事例
これはあくまで一般化した事例ですが——小学5年のMくんは、「ゲームは1時間まで」という約束を何度も破り、お母さんをひどく消耗させていました。叱るたびに泣いて謝るのに、翌日も同じことを繰り返す。詳しく話を聞くと、Mくんはゲームを始めると「時間が経っている感覚がなくなる」と話しました。悪意や反抗心ではなく、時間感覚のずれと衝動性が組み合わさったものでした。専門家と相談してタイマーを使う仕組みを作ったことで、少しずつ改善しました。
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叱り続けても変わらない理由——親が消耗する前に知っておくこと





叱ることが悪いのではありません。ただ、それだけでは変わりにくい
「何度言ってもダメ」という状態が続くとき、親はどんどん消耗していきます。怒りが積み重なり、子どもへの言葉がきつくなり、関係性そのものが傷ついていく——という悪循環に入ってしまうことがあります。
叱ること自体は必要です。ただ、パターンBの子どもに叱るだけのアプローチを続けると、次のことが起きやすくなります。
⚠️ 叱るだけでは起きやすいこと
- 「どうせまた怒られる」という自己評価の低下——叱られるたびに「自分はダメだ」という感覚が積み重なり、自己肯定感が下がる
- その場だけの謝罪の学習——「とりあえず謝れば許される」というパターンが定着し、本質的な変化につながらない
- 隠蔽の学習——「バレなければいい」という方向にシフトし、問題が見えにくくなる
- 親子関係の悪化——約束が守れないたびに関係が消耗し、子どもが何でも話せる関係が壊れていく
「叱ることをやめる」という話ではありません。叱り方を変える、そして叱る以外のアプローチを加えることが必要だということです。
また、親自身が「約束を守れない子への怒り」で消耗している場合、まず親自身のケアも必要です。一人で抱え込まず、専門家に相談することも選択肢に入れてください。
今日からできる関わり方——「守れる約束」の作り方



では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
① 約束の難易度を下げる
「ゲームは1時間」という約束が守れないなら、まず「30分でいったんやめてみる」に下げてみます。守れる約束を積み重ねることで、「守れた」という成功体験が生まれ、次の約束への意欲につながります。大きな約束を一つ作るより、小さな約束を守れた経験を積む方が変化が起きやすいのです。
② 子どもと一緒に決める
親が一方的に決めた約束より、子ども自身が「これならできる」と感じた約束のほうが守られやすくなります。「どうしたら守れそう?」と子どもに考えさせる問いかけは、実行機能のトレーニングにもなります。
「子どもに決めさせる=甘い」ではありません。自分で決めた約束のほうが責任感が生まれやすく、守れたときの達成感も大きくなります。
③ 「見える化」「仕組み化」で記憶・時間感覚を補う
実行機能に弱さがある子どもには、「脳で覚えておく」を「外側の仕組み」に置き換えることが効果的です。
🔑 仕組みの例
- タイマーを使う——終わり時間を「体感」ではなく「音」で知らせる
- 目につく場所に約束を貼る——冷蔵庫・テレビの横など、忘れにくい場所に視覚的に残す
- 「終わる前の声かけ」を子どもに自分でセットさせる——スマホのアラームを子どもが自分でセットすることで、主体性が生まれる
- チェックリストを使う——「やること」を言葉で伝えるのではなく、リストで確認できる形にする
④ 守れたときを見逃さず伝える
「約束が守れなかったとき」だけに反応していると、子どもはその印象しか積み重なりません。「今日は守れたね」という言葉を、できるだけ具体的に伝えることが変化の土台になります。「えらい」という評価より、「今日は自分でアラームをセットして止めたね」という事実の言及のほうが、子どもの自己効力感につながります。
専門家への相談を検討してほしいとき
⚠️ 次のような状況があれば早めに相談を
- 仕組みを工夫しても繰り返しが続き、家庭内での対応に限界を感じている
- 不登校・学習のつまずき・友人関係のトラブルなど、他の困難も重なっている
- 子どもへの怒りをコントロールするのが難しくなってきた
- 発達特性が関わっているかもと感じている
スクールカウンセラー・子ども家庭支援センター・発達支援センター・児童精神科などに相談することで、「この子にはどんな支援が合うか」を一緒に考えることができます。
まとめ
📝 この記事のまとめ
- 「守る気がない」と「守りたいのに守れない」は別のパターン——繰り返す場合は後者の可能性を検討する
- 「守れない」背景には実行機能(ワーキングメモリ・衝動性・時間感覚・見通す力)の弱さが関わっていることがある
- ADHDの特性がある子どもは実行機能に困難を抱えやすく、叱るだけでは改善しにくい
- 叱り続けると「自己評価の低下」「隠蔽の学習」「関係性の悪化」につながりやすい
- 関わり方のポイントは「約束の難易度を下げる」「一緒に決める」「見える化・仕組み化する」「守れたときを伝える」
- 繰り返しが続く・他の困難も重なる場合は、スクールカウンセラーや専門機関へ早めに相談を
「何度言ってもダメ」と感じているとき、その消耗は本物です。でも、その「ダメ」の裏にあるものを少し変えて見ることで、関わり方が変わることがあります。
一人で全部抱えようとしなくていいんです。一緒に考えましょう。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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