子どもの腕に傷があることに気づいた——。
その瞬間、頭が真っ白になった方もいらっしゃると思います。「なぜ」「どうして」「自分のせいなのか」。言葉が出ない、涙が出る、怒りが込み上げてくる。そのすべてが、親として当然の反応です。
でも、その後どうすればいいのか、なかなか誰にも聞けずにいませんか。
この記事では、子どもの自傷行為を知ったときに、まず何を知り、最初にどう動けばいいかを整理します。「完璧な対応」ではなく、「これだけは知っておいてほしいこと」を伝えることが目的です。
私は公認心理師として子ども家庭支援センターに勤務し、発達障害・不登校・問題行動の相談を日々受けています。以前の職場では、自傷を呈する少年たちとの関わりも経験してきました。「どう関わればいいかわからない」という保護者の戸惑いに、何度も向き合ってきました。
一人で抱え込まないために、まずここから読んでみてください。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 子どもの腕の傷に気づき、何をすればいいか戸惑っている方
- 子どもから「自分を傷つけたことがある」と打ち明けられた方
- 責めてはいけないとわかっていても、どう声をかければいいか迷っている方
- リストカットと自殺の関係が心配で、正しい知識を知りたい方
自傷行為とはどういう行為か——まず知っておいてほしいこと

ゆうまず落ち着いて。知ることが最初の一歩です
リストカットをはじめとする自傷行為は、専門的には「非自殺的自傷行為(NSSI: Non-Suicidal Self-Injury)」と呼ばれます。「自殺しようとする行為」とは区別されます。
松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)は、自傷行為を「自殺以外の意図から、非致死的な手段をもって、故意に自らの身体に損傷を加える行為」と定義しています。多くの場合、強い不快感情への対処として繰り返されるものとされています。
ただし、「自殺とは別の行為だから安心」とは言えません。自傷を繰り返している子どもは、そうでない子どもと比べて自殺リスクが高くなることも知られています。「軽く見てよい」ということではなく、「パニックにならず、しっかり向き合う必要がある」ということです。
🔑 最初に知っておいてほしい3つのこと
- 自傷行為は「死にたい」とは別の行為であることが多い
- しかし繰り返す場合は専門的なサポートが必要なサインである
- 「親のせい」と決めつけることも、「大したことない」と軽視することも、どちらも正確ではない
また、リストカットは思春期に一定の頻度で起きていることも知られています。世界の一般青年を対象にしたメタ解析(Xiao et al., 2022)では、自傷行為の生涯有病率は約22%と報告されています。10人に2人という数字は、「ごく一部の特別な子ども」の話ではないことを示しています。
📄 研究の紹介
Xiao et al.(2022)は、2010〜2021年の研究を対象に一般青年の自傷行為有病率をメタ解析した論文です(Frontiers in Psychiatry, DOI: 10.3389/fpsyt.2022.912441)。264,638人を含む62研究をもとに、非臨床サンプルにおける生涯有病率を算出しています。
なぜ子どもは自分を傷つけるのか——背景にある心理
「なぜそんなことを」という問いは、知ったときの自然な反応です。でも、子ども自身も「なぜ自分がこうするのか」をうまく言葉にできないことがほとんどです。
自傷行為には、大きく分けて次のような心理的な機能があるとされています。
① 感情の痛みを「身体の痛み」に変える
強い不安・恐怖・怒り・空虚感——こうした感情は、言葉にならないほど圧倒的になることがあります。身体に痛みを与えることで、心の痛みを一時的に和らげようとするのが、自傷の最も多い機能です。
痛みそのものではなく、「感情がコントロールできた」という感覚を求めている場合もあります。「自分の体だけは自分でどうにかできる」という、歪んだ形のコントロール感です。
② 「自分がここにいる」ことを確認する
解離(現実感の喪失、ぼんやりした感覚)が強いとき、痛みによって「自分が存在している」ことを確かめようとする場合があります。感情が麻痺したような感覚の中で、痛みだけがリアルに感じられるという状態です。
③ 苦しさを誰かに伝えるために
「助けてほしい」「自分がつらいことに気づいてほしい」という気持ちが、言葉ではなく傷として現れることがあります。これは「かまってほしいだけ」ではありません。それほど言葉にならないほどのSOSであると受け取ることが大切です。
💬 一般化した事例
これはあくまで一般化した事例ですが——中学2年のBさんは、学校でのいじめと家庭内の緊張が重なる時期に、自傷を始めました。「なぜするのか」と聞かれても答えられなかったBさんが、後からカウンセラーに語ったのは「あのときだけ頭が静かになった」という言葉でした。自傷が感情調整の手段になっていたのです。
日本の縦断研究(教育心理学研究, 2023)では、中学3年時に自傷が始まった生徒群は、中学1年時からすでに抑うつや家族・友人関係の不適応が高かったことが示されています。自傷は「突然始まる」ものではなく、子どもが長い間抱えてきたものが表面化したものとして捉えることが助けになります。
📄 研究の紹介
中学生4,050名を対象とした3年間の追跡研究(J-STAGE公開日: 2023/03/25, 教育心理学研究 第71巻第1号)では、中3時点で自傷が発生した生徒群は、中1時点からすでに非自傷群と比べて抑うつや対人関係不適応が高かったことが示されています。自傷は突発的な出来事ではなく、積み重なった苦しさの表れである可能性を示す研究です。
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知ったときの親の反応——してはいけないことと、してほしいこと





最初の反応が、その後の関係を左右します
子どもの自傷を知った直後の親の反応は、その後の子どもの「打ち明けてよかった」「やっぱり言わなければよかった」を大きく左右します。
完璧な反応でなくていいのです。ただ、次のことは覚えておいていただきたいと思います。
避けてほしい反応
⚠️ 次の反応は子どもを追い詰めやすいので注意してください
- 強く責める・怒鳴る——「なんてことをしたんだ」という反応は、子どもが「打ち明けるべきではなかった」と感じる原因になります
- 「大げさ」「かまってほしいだけ」と軽く扱う——SOSを否定することは、次に助けを求める力を奪います
- 「絶対にやめなさい」と強く命じる——禁止だけでは感情の逃げ場がなくなり、自傷が見えないところに隠れやすくなります
- 「私のせい?」と自分の話にする——親が動揺しすぎると、子どもが「親を傷つけてしまった」と罪悪感を抱き、次に打ち明けられなくなります
最初にしてほしいこと
では、どう反応すればいいのでしょうか。「完璧な言葉」は必要ありません。次の3つを意識してみてください。
💡 最初の3ステップ
- まず傷の手当てをする——感情より前に、身体のケアを優先する。これが「あなたのことが大事」という行動的なメッセージになります
- 「話してくれてありがとう」と伝える——子どもが打ち明けたこと、または傷を見せた(見えてしまった)ことを、責めるのではなく受け取る。それだけで十分です
- すぐに「なぜ」を問わない——「どうしてこんなことをしたの」という問いは、子どもには答えられないことが多く、責めているように聞こえます。今は「一緒にいる」ことを優先してください
私自身も、支援の現場でこう伝えることがあります——「最初の言葉より、そこにいてあげることのほうが、子どもには届きます」と。
専門家につなぐ——親だけで抱えないために
自傷行為は、親だけで解決しようとするには重すぎるテーマです。専門家のサポートを求めることは、弱さではありません。「助けを求める力」こそ、子どもに見せてほしい姿です。
相談先の選択肢
どこに相談すればいいかわからない、という方のために、選択肢を整理します。
📋 相談先の選択肢
- 学校のスクールカウンセラー——まず学校内で子どもの様子を把握してもらえます。保護者だけで相談することも可能です
- 子ども家庭支援センター(各市区町村)——無料で相談できます。受診前の「話を聞いてもらう」場として利用しやすい窓口です
- 児童精神科・思春期外来——繰り返している・深刻化しているときは医療機関への受診を検討してください。かかりつけ医への相談から始めるのも一つの方法です
- オンラインカウンセリング——夜間や仕事合間にスマホから相談できます。まず親自身の気持ちを整理したいときにも活用できます
今すぐ相談してほしいとき
⚠️ 次のような状況があれば、すぐに専門機関へ
- 傷が深い・止血が必要な状態である
- 「死にたい」「消えたい」という言葉が出ている
- 自傷の頻度が増えている・エスカレートしている
- 食事をとれない・眠れないなど、生活が著しく乱れている
- 子ども自身が「助けてほしい」と言っている
緊急性を感じるときは、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)に電話することもできます。子ども本人が電話できる窓口でもあります。
「病院に連れて行くと子どもが嫌がるかもしれない」「大げさだと思われないか」——こうした不安で受診をためらう方も多くいます。でも、専門家に相談することで「今どのくらい深刻か」「何が必要か」が見えてきます。まず親だけで相談に行くことも可能です。
まとめ
📝 この記事のまとめ
- 自傷行為(NSSI)は「自殺しようとする行為」とは区別されるが、繰り返す場合は専門的サポートが必要なサインである
- 自傷の背後には「感情の痛みへの対処」「存在の確認」「SOSの表現」などの機能がある
- 自傷は突然始まるのではなく、長い間の苦しさが表面化したものである可能性が高い
- 最初の反応は「責める・軽視する・強制的にやめさせる」ではなく、「まず傷の手当て→話してくれたことを受け取る→すぐに理由を問わない」の3ステップを意識する
- 親だけで抱え込まず、スクールカウンセラー・子ども家庭支援センター・児童精神科などに相談を
- 「死にたい」という言葉・傷の深さ・頻度増加があるときは早急に専門機関へ
子どもの自傷を知ったとき、親はとても孤独になります。「誰にも言えない」「自分のせいかもしれない」という思いを一人で抱えている方も多いと思います。
でも、知ろうとしていること、ここまで読んでいること——それ自体が、すでに子どもへの向き合いの第一歩です。
あなた一人で全部わかろうとしなくていいんです。専門家と一緒に考えましょう。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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