学校を休みがちな子。いつも疲れた顔をしている子。年齢よりずっと大人びていて、決して弱音を吐かない子——。その背景に、家族の世話を担う日々が隠れていることがあります。「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちです。
私は公認心理師として、また以前の職場でも、家庭の中で大きな役割を背負ってきた子どもたちとたくさん出会ってきました。この記事では、ヤングケアラーとはどういう子どもたちなのか、どんな性格の特徴が見られ、大人になってからどんな影響があるのか、そして周りの大人にできることを、やさしくお伝えします。
ゆうお子さんのこと、あるいはご自身のことが気になっている方も、どうぞ読んでみてくださいね。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- ヤングケアラーという言葉を、正しく知りたい方
- 身近な子どもの様子が気になっている方
- ヤングケアラーの性格の特徴や、大人になってからの影響を知りたい方
- ご自身が子どもの頃、家族の世話を担っていた方
ヤングケアラーとは?


ヤングケアラーとは、本来は大人が担うと想定される家事や家族の世話などを、日常的に行っている18歳未満の子どものことをいいます。18歳以上の場合は「若者ケアラー」と呼ばれます。
どんな世話をしているのか
ケアの内容はさまざまです。障がいや病気のある家族の身の回りの世話、幼いきょうだいの世話や保育園の送り迎え、祖父母の介護、家事全般、家計を支えるためのアルバイト、日本語が第一言語でない家族のための通訳など。感情面で親を支える「心のケア」も、大きな負担のひとつです。
日本の現状
国の調査では、中学生・高校生のおよそ20人に1人が、世話をしている家族がいると回答しています。クラスに1〜2人はいる計算です。決して珍しいことではありません。
ただし、多くの子は自分がヤングケアラーだと気づいていません。「家族だから当たり前」「うちではこれが日常」と思っているため、SOSが出てこないのです。ここが、この問題のいちばん難しいところです。



本人が「助けて」と言えないからこそ、周りの気づきが大切です。
ヤングケアラーに見られる心理的な特徴
家族のケアを長く担ってきた子どもたちには、いくつかの共通した心理的な特徴が見られることがあります。ただし、これは「そういう性格だから」ではなく、過酷な状況を生き抜くために身につけた、適応のかたちです。
人に頼れない・弱音を吐けない
「親も大変だから、これ以上負担をかけたくない」。そんな優しさから、子どもは自分の困りごとを飲み込みます。頼る経験を積めないまま育つため、「助けて」の言い方がわからなくなるのです。周りからは「しっかりした子」に見えますが、内側では限界に近いこともあります。
感情にふたをする
つらい、さみしい、うらやましい——そうした感情を感じてしまうと、日々をこなせなくなります。そこで子どもは、無意識に自分の感情のスイッチをオフにすることを覚えます。感情を出さないぶん冷静に見えますが、自分が何を感じているのかわからなくなってしまうこともあります。
責任感が強く、年齢より大人びている
「自分がやらなければ家が回らない」という感覚から、強すぎる責任感を抱えます。同年代の子が子どもらしく過ごしている間に、家族を支える役割を果たしてきたぶん、ふるまいがぐっと大人びるのです。一方で、思いきり遊ぶ、甘える、友だちと衝突して仲直りする——そうした子ども時代ならではの経験が、少なくなりがちです。
その経験が育てた「強み」もある
ここで大切なことをお伝えします。ヤングケアラーの経験は、負の面だけではありません。相手の状況をよく見る観察力、人の痛みがわかる共感性、段取りをつける力、粘り強さ——そうした確かな力を身につけている方もたくさんいます。



「かわいそうな子」と決めつけないことも、その子を尊重する大切な姿勢です。
大人になってからの影響


ヤングケアラーだった方の中には、大人になってから生きづらさを感じる方もいます。子どもの頃に身につけた「人に頼らない」「感情を出さない」というやり方が、大人になると、かえって自分を苦しめることがあるからです。
- 人に相談したり、助けを求めたりすることに強い抵抗を感じる
- 自分の意見や気持ちを言葉にするのが苦手
- 力の抜き方がわからず、頑張りすぎてしまう
- 自分より他人を優先しすぎて、疲れきってしまう
- 自分の子育ての中で、当時の記憶がよみがえって苦しくなる
もし今、心当たりがある方がいたら——それは、あなたが弱いからでも、性格に問題があるからでもありません。子どもの頃、必死に環境に適応した結果です。そして、身につけたやり方は、大人になってからでも少しずつ変えていくことができます。
ひとりで抱え込まず、信頼できる人やカウンセリングの場で、これまでの気持ちを言葉にしてみてください。「あのときつらかった」と認めることは、過去を責めることではなく、自分を取り戻す第一歩です。
ずっと言えなかった気持ちを、話してみませんか
身近な人には話しにくいことも、専門家になら話せることがあります。オンラインなら、自宅から自分のペースで相談できますよ。
大人が気づくためのサイン
本人からSOSが出にくいからこそ、周りの大人が気づくことが大切です。次のようなサインが見られたら、背景に家族のケアがないか、そっと心にとめてみてください。
- 遅刻や早退、欠席が増えている
- 宿題が手つかず、授業中に居眠りが多い
- 部活動や友だちとの約束を、急にやめたり断ったりする
- 年齢のわりに家事に詳しく、生活感がある発言をする
- 家族の話題を避ける、または家族の心配ばかりしている
- いつも疲れた様子で、表情が乏しい
声をかけるときは、「家のこと、大変じゃない?」と責めずに聞くのがポイントです。「かわいそう」「親に問題があるね」といった言い方は、子どもが大切に思う家族を否定することになり、心を閉ざす原因になります。ケアそのものを否定せず、その子の頑張りをまず認めてあげてください。
これはあくまで一般化した事例ですが、遅刻が続く中学生がいました。理由を聞いても「寝坊です」としか言いません。あるとき先生が「朝、何かやることある?」と聞くと、幼いきょうだいの朝ごはんと登園準備をしていることがわかったそうです。本人は「当たり前のこと」と思っていました。支援につながってからは、「自分だけじゃないと知って、少し楽になった」と話してくれたといいます。気づいてくれる大人がいるだけで、子どもの世界は変わります。
相談できる窓口を知っておこう


「気づいたけれど、どこに相談すればいいの?」という方のために、身近な窓口をご紹介します。
- 子ども家庭支援センター…お住まいの自治体にある、子どもと家庭の相談窓口です
- 学校…担任の先生、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー
- 自治体の福祉窓口・地域包括支援センター…介護サービスなど、家族側の支援につながります
- ヤングケアラー支援の専門団体…当事者同士が集まれる場を運営しているところもあります
特に知っておいていただきたいのが、子ども家庭支援センターが、ヤングケアラーの支援も担っているということです。私自身も子ども家庭支援センターで働いていますが、ここは虐待や不登校の相談だけの場所ではありません。家庭の事情で子どもに負担が集中しているケースについても、相談を受け、必要な支援につなぐ役割を持っています。
実際の支援では、家事や介護のサービスを家族側に導入して子どもの負担を減らしたり、学校や福祉の担当者と連携して見守り体制をつくったりします。大切なのは、子どもからケアを取り上げることではなく、子どもが子どもらしく過ごせる時間を取り戻すことです。
「相談したら、家族が責められるのでは」と不安になる方もいます。でも、支援者が目指すのは家族を切り離すことではなく、家族全体が無理なく暮らせるように支えることです。どうか安心して、まずは電話一本からつながってみてください。相談先の選び方は、こちらの記事も参考になります。


まとめ
今日お伝えしたことを、最後に振り返っておきますね。
- ヤングケアラーは、大人が担うはずの世話を日常的に行う18歳未満の子ども
- 「家族だから当たり前」と思い込み、本人からSOSが出にくい
- 頼れない・感情にふたをする・責任感が強いといった特徴は、適応のかたち
- 大人になってからの生きづらさも、少しずつ変えていける
- 子ども家庭支援センターをはじめ、相談できる窓口がある
ヤングケアラーの子どもたちは、家族を大切に思うからこそ頑張っています。その頑張りを否定せず、けれど、ひとりで背負わなくていいことを伝えてあげたい。そう思います。もしあなた自身がかつてそうだったなら、当時の自分に「よく頑張ったね」と声をかけてあげてくださいね。そして今からでも、誰かを頼っていいのです。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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