「小学生のうちに、もっと早く動いておけばよかった」——そんな気持ちが頭をよぎることはありませんか。
お子さんが中学生・高校生になって、反抗や無視、かみ合わない会話が増えた。発達の特性があることはわかっているのに、どう関わればいいのか、もうお手上げだと感じている。そんな保護者の方は少なくありません。
「今さらペアレントトレーニング(ペアトレ)を受けても意味があるの?」という問いに、私は「遅くはありません」とお伝えしています。思春期の発達障害のある子どもを持つ保護者を対象にしたペアトレの研究では、保護者の精神的な健康が改善し、子どもの行動にもよい変化が見られることが確認されています。
この記事では、思春期からでもペアトレが効く理由と、忙しい共働き保護者にも利用しやすいオンライン形式の選択肢について、公認心理師の立場からお伝えします。私は子ども家庭支援センターで、発達障害のある思春期の子どもとその保護者の支援に長く携わってきました。「もう遅い」と諦める前に、ぜひ読んでみてください。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 発達障害のある子どもが中学生・高校生になり、関わり方に行き詰まりを感じている
- ペアレントトレーニングが気になっているが「今さら遅い?」と思っている
- 反抗期と発達の特性が重なって、どう接したらいいかわからなくなっている
- 共働きで忙しく、通う時間が取れないため相談に踏み出せていない
思春期の発達障害に、ペアトレは「今さら」ではない

ペアレントトレーニング(ペアトレ)というと、「幼児期や小学生のうちに受けるもの」というイメージを持っている方が多いかもしれません。実際、ペアトレのプログラムは小さな子どもを対象に開発されたものが多く、中学・高校生の保護者向けの情報はまだ少ない状況です。
でも、「思春期になったら手遅れ」というのは思い込みです。
思春期だからこそ、今「親の関わり」を見直す意味がある
思春期は、子どもが親から自立しようとする時期です。同時に、発達の特性を持つ子どもにとっては、学校生活や友人関係の複雑さが増し、感情のコントロールや対人関係でのつまずきが表面化しやすい時期でもあります。
「最近、何を話しかけても無視される」「些細なことで怒鳴り合いになる」「部屋に閉じこもって出てこない」——こうした状況に追い詰められている保護者の方は多いのではないでしょうか。
この時期に親子の関わり方を見直すことは、二次障害(不登校・うつ・自傷など)の予防にもつながります。子どもが成長しているからこそ、「今の年齢に合った関わり方」を学ぶ意味があるのです。
思春期対象のペアトレ、研究で効果が確認されています
「でも、本当に効くの?」という疑問はもっともです。ここで一つの研究をご紹介します。
📚 参考研究
山中智央 ほか(鳥取大学大学院医学系研究科)(2024). 発達障害のある思春期の子どもの保護者へのオンラインペアレントトレーニングの効果:地域型・臨床型の比較後ろ向き観察研究. Yonago Acta Medica, Vol.67, No.4, pp.341-354.
DOI: 10.33160/yam.2024.11.009
この研究は、中学・高校生相当の思春期の子どもを持つ発達障害のある子の保護者を対象にした、国内では希少な研究です。カウンセリングスキルを組み込んだオンライン思春期向けペアトレ(ON-APT)の効果を検証したもので、保護者の精神的健康の改善と子どもの問題行動の軽減が確認されました。
「思春期になってからでは遅い」ではなく、「思春期の今だからこそ、できることがある」——この研究はそのことを示しています。
ゆう思春期からのペアトレ、研究でも効果が確かめられているんです
「もう手遅れかも」と感じているなら、まず一度話してみませんか
思春期の発達障害への関わり方、子どもとのコミュニケーションの悩みを、オンラインで公認心理師などの専門家に相談できます。
思春期のペアトレ、何が違う?何を学ぶ?
ペアトレというと「子どもをうまくほめるスキル」「指示の出し方」などをイメージする方が多いかもしれません。これは主に小学生以下の子どもを対象にしたプログラムの内容です。
思春期向けのプログラムは、少し方向性が異なります。
「コントロール」から「対話」へのシフト
小学生以下の子どもへの関わりでは、行動を「ほめる・無視する・指示する」という形で親がある程度コントロールする方向性が中心です。でも、思春期の子どもにそのまま当てはめようとすると、反発を招くことがあります。
中学生・高校生の子どもはすでに自分の意思を持ち、親のコントロールに抵抗します。これは発達として自然なことです。だからこそ、思春期向けのペアトレでは「対話・交渉・感情のやりとり」に軸足が移ります。
💡 思春期向けペアトレで学ぶこと(例)
- 子どもの話を「聴く」スキル(評価・否定をせずに受け取る)
- 感情的にならずに要求を伝えるコミュニケーション
- 子どもが「自分で決める」場面をどう作るか
- 親自身のストレスと感情の管理
- 学校や支援機関との連携の取り方
先ほど紹介した研究(山中ら、2024)で使われたON-APTというプログラムは、カウンセリングスキルを組み込んだ思春期特化型のプログラムです。子どもの行動をコントロールするのではなく、親子の関係性そのものを改善することを目指しています。
「反抗期」と「発達の特性」が重なると、親は本当に消耗する
🗒 これはあくまで一般化した事例ですが……
中学2年生のBさんは、ADHDと診断されています。小学生のうちは「叱れば動く」場面もありましたが、中学に入ってから親の言葉に耳を貸さなくなりました。声をかけても無視、注意すると怒鳴り返す。お母さんは「もう何もできない、何をしても無駄」と感じるようになっていました。支援者と一緒に「声のかけ方」と「タイミング」を変えることから始めたところ、3ヶ月後には親子の会話が少しずつ戻ってきたそうです。
反抗期と発達の特性が重なると、「どちらのせいなのか」が見えにくくなります。でも、どちらが理由であっても、「今の年齢に合った関わり方」を学ぶことは、必ず役に立ちます。



「対話」のスキルは、思春期だからこそ効いてきます
オンラインでも十分効果がある——共働き保護者にこそ知ってほしい


「ペアトレに興味はある。でも、平日に通える場所を探すのが難しい」「職場や学校に知られたくない」「そもそもどこに相談すればいいかわからない」——これが、多くの共働き保護者がペアトレに踏み出せない理由です。
「通えない」壁を越える:オンラインPTの広がり
先ほどの研究(山中ら、2024)では、医療機関ベースと地域ベースの両形式でオンラインPTを実施し、どちらでも保護者の精神的健康の改善と子どもの行動の改善が確認されました。つまり、専門の医療機関に通わなくても、地域の支援機関を通じたオンライン形式で十分な効果が得られる可能性があるということです。
また、別の調査研究(山中ら、2024)では、PT未受講の保護者806名を対象にニーズを調査した結果、オンラインと対面を自分で選べる柔軟な形式へのニーズが高く、費用負担への懸念も強いことが明らかになっています。「無料または低コストで、スマホから受けられるなら参加したい」という声が多くありました。
📚 参考研究
山中智央 ほか(鳥取大学大学院医学系研究科・島根大学)(2024). 日本における発達障害のある子どもの保護者のペアレントトレーニングへの期待. Yonago Acta Medica, Vol.67, No.4, pp.329-340.
DOI: 10.33160/yam.2024.11.008
「診断がない子」の保護者も対象になる
もう一つ、知っておいてほしいことがあります。同調査では、未診断(グレーゾーン)の子どもを持つ保護者も対象に含まれており、「診断がなくても参加できるプログラムへのニーズ」が確認されました。
「うちの子は診断がついていないから……」と思っている保護者の方にも、ペアトレは選択肢になり得ます。子どもの特性に合わせた関わり方を学ぶことは、診断の有無にかかわらず有効です。



グレーゾーンでも、オンラインでも、受けられる場所があります
まずは「話す」ことから——専門家への相談が入口になる
ペアトレを正式に受ける前に、「今の状況を整理して、方向性を考えたい」という段階の方も多いと思います。そういうときに、オンラインでの個別相談が役立ちます。
うらら か相談室では、発達障害のある子どもへの関わり方や、親自身の消耗について公認心理師などの専門家にオンラインで相談できます。「ペアトレを受けるべきか」「どこに相談すればいいか」を一緒に考える入口としても活用できます。
「もう遅い」は思い込み——今日から変えられること
現場で多くの保護者と関わってきた経験から、はっきり言えることがあります。
親の関わりが変わると、子どもの行動は変わります。それは、子どもが何歳であっても同じです。
もちろん、変化には時間がかかります。中学生・高校生の子どもは、一朝一夕には動きません。でも、「親が変わった」ことを子どもは必ず感じています。怒鳴り合いが1回減る。「聞こえてなさそうでも、実は聞いていた」と気づく瞬間がくる。そういう小さな変化が、関係の立て直しにつながっていきます。
完璧な関わりを目指さなくていい
「学んだことを毎日実践しなければ」「うまくできなければ意味がない」——そう思う必要はありません。
ペアトレで学ぶのは「スキル」ですが、それ以上に大切なのは「子どもをどう見るか」という視点の変化です。「なぜこの子はこうするのか」が少しわかるだけで、親の感情的な反応が変わります。感情的な反応が変わると、子どもの受け取り方も変わります。
💡 今日からできる、小さな一歩
- 子どもが話しかけてきたとき、スマホを置いて顔を向ける
- 注意するより先に「そっか」と一言受け取ってみる
- 「なぜこうなったのか」を責めずに、一緒に考える言葉をかける
- うまくいかない日があっても「また試みる」と思う
一人で抱えないこと——それが次の一歩です
思春期の子どもへの関わりに行き詰まっているとき、一番やってほしくないのは「一人で抱え込んで、疲れ果てること」です。
支援者に話すことで、状況が整理されます。「こんなことで相談していいのか」と思う必要はありません。「子どもとの関わりがうまくいっていない気がする」——それだけで十分、相談の理由になります。



話すだけで、次の一歩が見えてくることがあります
思春期の子どもへの関わりに行き詰まっているなら、まず話してみませんか
うららか相談室では、発達障害のある子どもへの対応や、思春期の親子関係について、スマホからオンラインで専門家に相談できます。ペアトレを受ける前の「まず話したい」というニーズにも応えてもらえます。
まとめ
- ペアレントトレーニングは、中学生・高校生の発達障害のある子どもを持つ保護者にも効果が確認されている
- 思春期向けのPTは「コントロール」ではなく「対話・交渉・感情のやりとり」にシフトした内容になる
- オンライン形式でも対面と同等の効果があることが研究で示されており、共働き保護者にも活用しやすい
- 診断のない「グレーゾーン」の子どもを持つ保護者も対象になるプログラムがある
- 親の関わりが変わると子どもの行動は変わる。「もう遅い」ではなく「今からできる」という視点を持ってほしい
- まずは専門家に話すことが、次の一歩への入口になる
「遅かった」と後悔している時間は、もうやめて大丈夫。今日のあなたが動き始めることが、お子さんにとっての変化の始まりになります。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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