子どもに怒鳴られる。物を投げられる。手を出されることもある。
その瞬間、頭が真っ白になって、気づいたら「自分の関わり方が悪かったのでは」と自分を責めていた——そんな経験をしている親御さんが、実は少なくありません。
誰にも言えない。相談したくても、どこに連絡すればいいかわからない。そもそも「これは家庭内暴力と呼んでいいのか」すら判断できない。そんな迷いの中にいる方もいるでしょう。
この記事では、子どもから家庭内暴力を受けているとき、親が知っておきたい背景と対応を、公認心理師の立場から整理します。解決策を押しつけるものではありません。今の状況を一緒に考えるための材料として、読み進めていただければと思います。
私は現在、子ども家庭支援センターで、発達障害・不登校・子どもの問題行動の支援に携わっている公認心理師です。以前の職場では長年、非行に関わる子どもたちや、その家族の支援にも携わってきました。子ども側の内面も、親御さんの苦しさも、両方を間近で見てきた立場から書いています。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 子どもの暴言や暴力に、恐怖や不安を感じている方
- 「これは家庭内暴力と呼んでいいのか」と迷っている方
- 誰にも言えず、どこに相談すればいいか分からない方
- 「自分の関わり方が悪かったのでは」と自分を責めてしまう方
「家庭内暴力」と呼んでいいのか、迷っているあなたへ

「叩かれるほどではないから……」「たまに物を投げる程度だから……」「機嫌が悪いと怒鳴るだけで……」。そうやって、自分の感じている怖さや苦しさを、小さく見せようとしてしまう親御さんがいます。
でも、はっきりお伝えしたいことがあります。
💡 親が恐怖や強い不安を感じている時点で、その状況は十分に重いものです
暴言・威圧・物を壊す行為も、家庭内暴力の一部として扱われます。「大げさかもしれない」と感じる必要はありません。
あなたが一人で抱えている問題は、決して珍しいことではありません。次の章で、公的なデータからも見ていきましょう。
「家庭内暴力」と言えるか迷う段階でも、相談していいんです。怖いと感じたら、それが一つのサインです。
ゆう「怖い」と感じたら、それはもう相談していいサインです。
家庭内暴力の実態|データで見る現状
数字で見ると、決して「うちの家庭だけ」の特別な問題ではないことが分かります。
次のグラフは令和7年版犯罪白書にある「少年による家庭内暴力の認知件数の推移」です。令和5年に最大となり、令和6年は若干減少しましたが、高水準が続いています。


📊 少年による家庭内暴力の対象(令和6年)
- 母親:2,714件
- 父親:641件
- 兄弟姉妹:466件
- 同居の親族:193件
- 家財道具等:650件
出典:令和7年版犯罪白書(警察庁生活安全局資料)
この数字が示すように、家庭内暴力の矛先は、多くの場合、母親に向かいやすいという傾向がはっきり出ています。
「なぜか自分ばかり狙われる」と感じている方がいたら、それはあなたの対応が悪いからではなく、統計的にもよく見られるパターンなのです。どうか、自分だけを責めないでください。



あなたばかりが向けられるのは、対応のせいではありません。
なぜ子どもは家の中で暴力という手段を取るのか


「なぜこんなことをするのか」——その問いに答えるために、まず知っておいてほしいことがあります。
家庭内暴力は、親のしつけや子どもの性格だけで起きるものではありません。多くの場合、生物・心理・社会という3つの側面の要因が重なり合って起きています。これを「生物心理社会モデル」と言います。
① 衝動を抑えにくい特性がある場合(生物的な側面)
怒りや不満を感じたとき、「頭では止められるとわかっているのに、体が先に動いてしまう」という子どもがいます。これは甘えやわがままではなく、感情をコントロールする力がまだ十分に育っていない状態と捉える方が現実的です。
ADHDなどの発達特性がある場合、幼いころから衝動性が高く、注意されてばかりで怒りやイライラを内側に溜め込んでいることも少なくありません。それが積み重なった結果として、暴力という形で現れることがあります(発達障害の二次障害)。これは、親の関わり方だけで左右されるものではなく、本人の特性として理解する視点が必要です。


② 強そうに見えて、内側に自信のなさを抱えている場合(心理的な側面)
一見すると気が強く、プライドが高いように見える子どもでも、内側では強い不安や自己否定感を抱えていることがあります。思いどおりにいかない場面や、否定されたと感じた瞬間に、その不安が怒りとして一気に噴き出してしまうのです。
暴力的な行動は、「自分を守るための必死な反応」として現れている場合もあります。行動だけを止めようとすると、かえって気持ちの行き場を失ってしまうことがあります。
③ 学校や社会でのしんどさを、家庭で爆発させている場合(社会的な側面)
学校や友人関係で強いストレスを抱えている子どもほど、家の中で感情を爆発させやすくなります。外では必死に我慢している分、「安全な場所」である家庭で抑えが効かなくなってしまうのです。
親にとっては突然の出来事に感じられても、子どもにとっては限界まで溜め込んだ結果であることも多くあります。不登校が背景にある場合、このパターンがとくに見られます。
📝 架空の事例(一般化した例として)
これはあくまで一般化した事例ですが、中学2年のAくんは、学校では「おとなしくていい子」と言われていました。ところが帰宅すると些細なことで激しく怒鳴り、物を投げることが続いていました。お母さんは「学校では問題ないのに、なぜ家だけこうなのか」と混乱していました。話を聞くと、Aくんは学校で友人関係に強いストレスを感じ、毎日緊張しながら過ごしていました。家に帰ってはじめて「安心して崩れられる」状態だったのです。家庭内での爆発は、外での我慢の裏返しでした。
もう一つ、現場でよく出会う背景についてもお伝えしておきたいと思います。それは、子どもが小さい頃に、厳しい叱り方や、時につらい関わりを受けてきたというケースです。
これは、すべての家庭内暴力に当てはまるわけではありません。ですが、ご相談を受けていると、こんな構図に出会うことは決して少なくありません。力で抑えられて育った子どもが、成長して力を持ったとき、今度は自分がその力を使う側に回ってしまう——そうしたケースです。
もし思い当たることがあったとしても、どうか自分を責め続けないでください。これまで精一杯の子育てをしてきた中で、うまくいかないことがあったとしても、今この瞬間から関わり方を変えていくことはできます。大切なのは、原因探しで立ち止まることより、今の状況にどう向き合うかです。
過去に体罰をしたことがあるとして心配な方は次の記事を参考にしてください。


また、子どもの感情コントロールの発達については、こちらの記事でも詳しく解説しています。





暴力は、いくつもの事情が重なって起きています。
「なぜこうなるのか」を、一緒に整理してみませんか
一人で考え続けるより、専門家に話すだけで見えてくることがあります。自宅から、オンラインで相談できます。
【年代別】家庭内暴力の特徴と対応の違い
家庭内暴力は、子どもの年代によって、あらわれ方も対応の考え方も変わってきます。お子さんの年代に近いところから読んでいただければと思います。
小学生の家庭内暴力|特徴と初期対応
小学生の家庭内暴力は、癇癪や強いこだわりの延長として表れることが多く、力そのものはまだ大人に及ばないことがほとんどです。ですが、「まだ小さいから」と見過ごすと、対応のパターンが固定化し、成長とともに深刻化するケースもあります。
この時期は、力で抑え込むより、落ち着いてから気持ちを言葉にする練習を積み重ねる関わりが効果的です。
中学生・高校生(思春期)の家庭内暴力|最も多い時期の対応
思春期は、もっとも家庭内暴力が起こりやすい時期です。体格的にも大人に近づき、力のバランスが逆転し始めることで、親御さんの恐怖心も一気に高まります。
この時期は、その場で完全に解決しようとしないことが大切です。安全を確保した上で距離を取り、興奮が収まってから話す。これだけで状況が変わることも少なくありません。
成人した子ども(20歳以降)からの暴力|長期化したケースの視点
思春期に始まった暴力が、そのまま成人後も続いてしまうケースもあります。長期化すればするほど、「もう今さら」「うちだけこんな状態が続くのでは」と、親御さんが孤立を深めてしまいがちです。
ですが、何年続いていたとしても、専門機関に相談することで状況が変わった例を、現場で数多く見てきました。続いてきた長さは、諦める理由にはなりません。
息子から/娘からで、対応に違いはあるか
「息子だから力が強くて怖い」「娘だから気づかれにくい」など、性別によるイメージを持たれる方も多いのですが、対応の基本的な考え方に大きな違いはありません。大切なのは性別ではなく、暴力がどの段階にあるかという視点です。



年代によって、力の大きさも対応も変わってきます。
暴力が起きたとき・続いているとき 親の動き方


「とにかく今すぐやめさせたい」——その気持ちは当然です。ただ、力づくで止めようとすると、かえって激化するケースが少なくありません。まずは段階ごとに整理しましょう。
その場では「安全を確保」することを最優先に
暴力が起きている最中に、言い聞かせたり話し合おうとしたりしても、うまくいきません。感情が高ぶっている状態では、言葉は届きにくいからです。
「逃げてはいけない」と思う必要はありません。その場を離れることは、エスカレートを防ぐための現実的な対応です。



その場は、まず安全の確保を最優先にしてください。
「受け入れる」は正解ではない
「子どものためだから仕方ない」と暴力を受け続けることは、解決にはなりません。専門家の中には「受け入れてあげて」というアドバイスをする人もいますが、暴力を甘んじて受けることは、かえって行動をエスカレートさせるリスクがあります。
子ども自身も、「暴力を振るってしまう自分」に罪悪感を持ちながら苦しんでいることがあります。受け入れ続けることは、その苦しさを長引かせることにもなりかねません。
エスカレートのサインを知っておく|なぜ「早めの相談」が大切なのか
家庭内暴力は、多くの場合、少しずつ段階を踏んで大きくなっていきます。「物に当たる」「大声を出す」という段階から始まり、「壁や家具を壊す」、そして「親に手を上げる」というように、少しずつ深刻さが増していくことがあります。
まれにですが、刃物を持ち出してしまうところまでエスカレートするケースもあります。そうなると、子ども自身が法的なトラブルに巻き込まれてしまう可能性も出てきます。子どもを守るためにも、そうなる前の対応がとても大切です。
⚠️ 相談は「深刻になってから」では遅い
「物に当たる」「大声で怒鳴る」といった、まだ軽い段階のうちに専門機関へ相談してください。「これくらいで相談していいのかな」と迷うくらいの段階こそ、実は一番相談しやすいタイミングです。早い段階での相談は、決して大げさなことではありません。
「まだ大丈夫」と思い続けた結果、親御さんが先に倒れてしまうケースを、私は現場で何度も見てきました。親が守られることが、子どもを守ることにもつながります。警察への相談も、「大げさ」ではなく、子どもの将来を守るための選択肢の一つです。
一人で抱え込まないために 相談先と親自身のケア
親が自分を責めすぎてしまう理由
家庭内暴力に直面した親御さんの多くが、「自分の関わり方が悪かったのでは」と強く自責します。でも、先ほど整理したように、家庭内暴力の背景には生物・心理・社会の複数の要因が絡み合っています。親の関わり方だけで起きるものではありません。
自責が強くなりすぎると、冷静な判断ができなくなり、必要な支援につながりにくくなります。「自分のせいではないかもしれない」という視点を、少し持ってみてください。
相談先の選び方
状況に応じて、使える相談先は複数あります。
📋 主な相談先
- 市区町村の子ども家庭支援センター・児童相談所
- 各都道府県の精神保健福祉センター
- スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー(在学中の場合)
- 警察(生活安全課)※安全が脅かされているとき
- 民間・オンラインのカウンセリング
「まだそこまでじゃない」と感じていても、早めに相談することで状況の整理ができます。相談することは、親としての責任放棄ではなく、状況を悪化させないための現実的な選択肢です。
オンラインカウンセリングの選び方については、こちらで詳しくまとめています。


暴力の先にあるもの|以前の職場で見てきたこと


以前の職場で、非行に関わる多くの子どもたちと関わってきた中で、家庭内暴力が「家庭の中だけの問題」では終わらないケースにも、たびたび出会ってきました。
家の中で力によって物事を解決するという経験を重ねてしまうと、その関わり方が、学校や職場など、家庭の外の人間関係にもそのまま持ち出されてしまうことがあります。友人とのトラブルや、職場での対人関係にあらわれることもあります。そしていつか誰かと家庭を築いたとき、パートナーとの関係の中に、同じパターンが現れてしまう可能性も、残念ながらゼロではありません。
これは、お子さんを責めるためにお伝えしていることではありません。むしろ逆です。「力で解決する」というパターンは、今、家庭の中で向き合うことで、変えていけるものだということをお伝えしたいのです。
今のうちに専門機関とつながり、暴力以外のかたちで気持ちを表現する経験を積み重ねられれば、それはお子さん自身の将来を守ることにもつながります。今、目の前にあるしんどさは、決して「この先もずっと続くもの」ではありません。
一般化した事例ですが、私が以前関わってきた子どもたちの中にも、こんなケースが何度もありました。専門的な関わりを経て、暴力以外の方法で自分の気持ちを表現できるようになり、その後の人間関係も少しずつ変化していった——そんな姿です。



その場は、まず安全の確保を最優先にしてください。
まとめ
✅ この記事のポイント
- 親が恐怖や不安を感じている時点で、その状況は十分に重い。迷う段階でも相談していい
- 暴力の矛先は母親に向かいやすく、「自分ばかり」は対応のせいではない
- 背景には生物・心理・社会の複数の要因があり、親の関わり方だけが原因ではない
- 年代によって特徴と対応は異なる。その場は安全確保を最優先に
- 軽い段階での早めの相談が、親も子どもも守ることにつながる
悩んでいること自体が、子どもと向き合おうとしている証です。一人で抱え続けなくて大丈夫です。状況を整理する場所は、必ずあります。
ひとりで抱え込まず、まず話してみませんか
今すぐ解決しなくて大丈夫です。話すだけで、状況が少し整理されることがあります。緊急時は警察や専門機関へ。そのうえで、あなたの気持ちは、自宅からオンラインで相談できます。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター
