「また忘れ物」「どうしてこれができないの」。発達障害のあるお子さんと過ごしていると、どうしても苦手なことばかりが目についてしまいませんか。頑張ってほしい気持ちが強いほど、できないところが気になって、つい表情がかたくなる。その繰り返しに、疲れてしまうこともありますよね。
私は公認心理師として、子ども家庭支援センターで発達障害や不登校のお子さんとご家庭を支えています。この記事でお伝えしたいのは、その「苦手」は、見方と環境を変えると「強み」に育つことがある、ということです。苦手を無理に直す話ではありません。得意を伸ばし、その子らしさを守る関わり方を、一緒に考えていきましょう。読み終える頃、わが子の見え方が少し変わっていたら嬉しいです。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- わが子の苦手なことばかりが目について、つらくなる方
- 「得意を伸ばそう」と言われても、何が得意か分からない方
- 苦手を無理に直させるより、その子らしさを大切にしたい方
- 子どもの自己肯定感を守る関わり方を知りたい方
「苦手」は本当に“弱み”なのか?

ゆう短所と長所は、実は同じ性質の“裏表”なんです。
私たちはつい、苦手を「直すべき欠点」として見てしまいます。でも、短所と長所は、多くの場合ひとつの性質の裏表です。見る角度が変わると、同じ特性がまるで違って見えてきます。
たとえば「落ち着きがない」は「行動力がある」、「こだわりが強い」は「探究心が深い」、「マイペース」は「まわりに流されない」。同じ姿を、別の言葉で捉え直しているだけです。特性そのものに良い・悪いはなく、活きる場面かどうかの違いなのです。
🔄 見方を変えると、こう変わる
- 落ち着きがない → 好奇心が旺盛で、行動が早い
- こだわりが強い → 興味を深く掘り下げられる
- 飽きっぽい → 切り替えが早く、発想が豊か
- 言葉がストレート → 正直で、駆け引きをしない
そもそも、なぜ苦手ばかりが目についてしまうのでしょうか。ひとつは、人の脳が「うまくいかないこと」に注意を向けやすくできているからです。加えて、集団の中では「みんなと同じにできない」姿が際立ちます。つまり苦手が目立つのは、その子の問題というより、見る場面の問題でもあるのです。
もちろん、言葉を置き換えれば苦労が消えるわけではありません。それでも、「この子はダメ」ではなく「この特性が活きる場所を探そう」と視点が変わると、親の気持ちにも余白が生まれます。まずは、責める目線をそっと下ろすことからで大丈夫です。
なお、この「言い換え」の考え方はリフレーミングと呼ばれます。もっと具体的な言い換えのバリエーションを知りたい方は、こちらの一覧が役立ちます。


わが子の“得意”を見つける視点



得意は「すごいこと」でなくていい。夢中になれることです。
「得意を伸ばそう」と言われても、特別な才能が見当たらないと感じるかもしれません。でも、得意とは人より秀でていることだけではありません。その子が夢中になれること、時間を忘れて取り組めること——それがもう、立派な得意の芽です。
発達の特性によって、得意の出方には傾向があります。あくまで一例ですが、それぞれの特性が活きる場面を知っておくと、わが子の芽に気づきやすくなります。
🌟 特性ごとに活きやすい“得意”の例
- ASD傾向…好きな分野を深く追求する、規則性やパターンに強い、こつこつ続けられる
- ADHD傾向…発想が豊か、行動が早い、興味のあることへの瞬発力がある
- LD傾向…苦手を補う工夫が生まれやすい、別の得意な感覚で理解する力が育つ
これはあくまで傾向で、同じ診断名でも得意は一人ひとり違います。特性の種類や特徴そのものをじっくり知りたい方は、こちらの完全ガイドもあわせてご覧ください。


得意を見つけるコツは、「できた/できない」ではなく「楽しそう/夢中」に目を向けることです。ゲームでも生き物でも電車でも、熱中している対象には、その子の強みのヒントが詰まっています。
これはあくまで一般化した事例ですが、あるお子さんは電車への強いこだわりがあり、家では「そればっかり」と心配されていました。けれど、その関心を否定せず一緒に調べたり路線図を作ったりしていくうちに、記憶力や集中力がぐんと伸び、学校の発表でも自信を持てるようになったそうです。「そればっかり」は、見方を変えれば「深く追求できる力」だったのです。
ふだんの様子を少し観察してみてください。どんなときに笑顔になり、どんなことなら人に教えたがるか。そこに、その子の得意の芽が見えてきます。見つかったら、「すごいね」より「楽しそうだね」と、その子の気持ちに寄り添う言葉をかけてあげてください。評価より共感のほうが、夢中を長続きさせます。
もし今、はっきりした得意が見つからなくても、焦らなくて大丈夫です。得意の芽は、ある日ふっと顔を出すこともあります。大切なのは、見つけようと待つまなざしを持ち続けること。「この子にもきっとある」と信じて過ごす日々が、そのまま子どもの安心につながっていきます。
苦手を強みに変える関わり方





苦手は「なくす」より「つき合い方を変える」でいきましょう。
強みを育てるとき、大切なのは順番です。苦手をゼロにしてから得意を、ではありません。まず得意を伸ばし、その自信を土台に苦手とつき合う。この順番だと、子どもは前向きに取り組めます。得意で得た「できた」の感覚は、苦手に立ち向かうときの心の燃料になるからです。
具体的には、3つの方向があります。得意を伸ばす、苦手は道具や人の力で補う、そして環境を整える。どれも「無理にできるようにする」のではなく、その子が力を出しやすくする工夫です。
💡 強みを育てる3つの関わり
- 伸ばす…夢中になれることに、時間と機会をたっぷり与える
- 補う…苦手はタイマー・メモ・写真など道具や人の手を借りる
- 整える…刺激を減らす、手順を見える化するなど環境を調整する
たとえば、忘れ物が多いなら「気をつけなさい」と言うより、持ち物リストを玄関に貼る。この工夫で乗りきる経験は、「自分にもできる」という感覚を育てます。苦手を根性で直すより、うまくつき合う力のほうが、一生ものの財産になります。
「整える」も、とても効果的です。たとえば、気が散りやすい子には机まわりの物を減らす、見通しが持ちにくい子には一日の流れを紙に書いて貼る。ちょっとした工夫で、同じ子がぐっと力を出せるようになります。できないのは本人のせいではなく、環境が合っていないだけ——そう考えると、打つ手が見えてきます。
反対に、気をつけたい関わりもあります。苦手なことを、できるまで繰り返し練習させることです。よかれと思ってのことでも、失敗体験が積もると自信を削り、かえって強みの芽までしぼませてしまいます。苦手は「人並みに」を目指さず、「困らない程度に補う」で十分だと考えてみてください。
そして、日々の声かけを少し「言い換える」だけでも、子どもの受け取り方は変わります。言い換えの考え方(リフレーミング)の基本は、こちらでくわしくお伝えしています。


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自己肯定感を守る関わりと、迷ったときの相談



強みを育てる土台は、「自分は大丈夫」という感覚です。
得意を伸ばす関わりの根っこにあるのは、「自分はこのままでいいんだ」という自己肯定感です。ここが揺らいでいると、どんな得意も伸びにくくなります。反対に、安心の土台があれば、苦手にも自分から向かっていけます。
自己肯定感を守るコツは、他の子と比べないこと。比べる相手は、昨日までのその子自身です。「前より少しできた」を一緒に喜ぶ小さな積み重ねが、確かな自信になっていきます。きょうだいや平均と比べたくなる気持ちは自然ですが、その物差しは一度そっと置いてみましょう。詳しい育み方は、こちらの記事でまとめています。


長い目で見ると、子どもの頃に育てた「夢中になれる力」は、将来の学びや仕事、居場所につながっていくことがあります。今すぐ何かに結びつかなくても大丈夫。好きなことに没頭した経験そのものが、その子の自信と土台を育てています。結果を急がず、その時間を守ってあげてください。
それでも、苦手が目立つ日々の中で、得意を見つけて信じ続けるのは簡単ではありません。親のあなたが疲れてしまう前に、誰かに話すことも大切なケアです。わが子の強みを一緒に探してくれる専門家に頼ることは、遠回りではなく近道になります。
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まとめ
発達障害のある子の「苦手」を強みに変える視点を、整理してきました。要点はこの4つです。
- 短所と長所は裏表。特性は環境しだいで強みにも弱みにもなる
- 得意とは「夢中になれること」。楽しそう・熱中に目を向けて芽を探す
- 順番は、まず得意を伸ばし、その自信を土台に苦手と“つき合う”
- すべての土台は自己肯定感。比べる相手は昨日までのその子自身
苦手が目立つと、つい不安が大きくなります。でも、その子の中には必ず、光る芽が眠っています。今日から少しだけ、「できない」より「夢中」に目を向けてみてください。うまくいかない日があっても、また明日から見直せば大丈夫です。あなたのそのまなざしが、わが子の強みを育てる、いちばんの栄養になります。焦らず、一緒に進んでいきましょう。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター
