仕事はきちんとこなせている。収入も安定している。それなのに、家の中だけがどうしても片付かない。子どもが生まれてからは、おもちゃやプリント、細々とした持ち物も増えて、もう手に負えない。そんな自分を「だらしない親」「やる気がない」と責めていませんか。
先にお伝えしておきます。片付けられないのは、性格でも甘えでもありません。この記事では、なぜADHDの特性があると片付けが苦手になりやすいのか、子育て中ならではの大変さ、子どもの生活への影響、そして家庭でできる工夫をお伝えします。私は公認心理師として、ご家庭を訪問して支援する仕事もしています。その経験もふまえて、同じ親として、正直にお話しします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- どうしても部屋が片付かず、悩んでいる方
- 「もしかして発達特性が関係している?」と感じている方
- 子どもの生活に影響が出ていて、心配な方
- 片付けの工夫や、相談先を知りたい方
なぜADHD系の人は片付けが苦手なのか

「片付けよう」という気持ちがないわけではありません。それでも片付かないのには、ADHDの特性による、いくつかのはっきりした理由があります。一つずつ、わかりやすく見ていきましょう。
💡 片付けが苦手になりやすい4つの理由
- 段取りを立てるのが苦手……「どこから」「どの順番で」片付けるかを組み立てる力(実行機能)が弱いため、始める前で止まってしまう
- 途中で気が散ってしまう……片付け中に見つけた別の物や、ふと浮かんだ考えに気を取られ、作業が中断してしまう
- 「捨てる」判断が難しい……一つひとつの物について「要る・要らない」を決める作業は、実は大量の意思決定の連続。それがとても負担になる
- 物が増えやすい……思いついた物を衝動的に買ってしまったり、後で使うかもと物を減らせなかったりする
つまり、片付けという作業には、計画を立てる・集中を保つ・判断を重ねるという、いくつもの力が同時に必要なのです。ADHDの特性がある方にとって、これはとても負荷の高い作業だと言えます。
そして、子育て中はこの負荷がさらに重くなります。おもちゃ、学校からのプリント、細々とした子どもの持ち物。管理する物の数そのものが増えるうえに、子どもの世話や家事、仕事にも同時に対応しなければなりません。片付けにあてられる時間も気力も、独身の頃よりずっと限られてしまうのです。「前はもう少しできていたのに」と感じる方がいても、それは当然のことです。
ゆう「やる気の問題」ではなく「力の使い方の問題」なのです。
社会的には困っていないように見える、というギャップ
ここで、少し意外に感じるかもしれないお話をします。私は仕事柄、ご家庭を訪問して支援する機会があります。その中で出会うのは、会社にきちんと勤め、収入も安定しているのに、自宅の中だけがとても片付いていない方々です。
外から見ると、何の問題もなく生活できているように見えます。だからこそ、本人も周囲も「困っている」と気づきにくく、相談につながりにくいという現実があります。片付けられないことは、だらしなさや、やる気のなさを示すものではありません。得意・不得意の凸凹が、たまたま「片付け」という分野に強く出ている、というだけなのです。
子どもの生活に及ぼす影響と、まず知ってほしいこと


片付けられない状態が続くと、子どもの生活にも影響が及ぶことがあります。足の踏み場がなくなる、必要な持ち物がすぐに見つからない、清潔な衣類をそろえるのが難しくなる。こうした状態が、お子さんの毎日に負担をかけてしまうことは事実です。
それでも、どうかご自身を「ダメな親」だと責めないでください。片付けが苦手なことと、子どもを大切に思う気持ちは、まったく別のものです。困っているなら、それは「向き合う気がない」のではなく、「一人で抱えきれなくなっている」というサインです。
📝 これはあくまで一般化した事例ですが
ある家庭では、仕事にも真面目に取り組んでいるお母さんが、家の片付けだけがどうしてもできず、長く一人で悩んでいました。誰かに相談することも「情けない」と感じ、避けていたそうです。あるとき思い切って支援機関に相談したところ、責められることはなく、一緒に片付けの手順を考えるところから始められました。「一人で抱えなくてよかったんだ」と、後から話してくださいました。
もし、お子さんの生活に支障が出るほど困っているなら、子ども家庭支援センターに相談するのも、一つの選択肢です。片付けそのものを直接担当する窓口ではなくても、状況を伝えれば、適切な公的機関や支援サービスを紹介してもらえます。
「片付けの相談なんて、大げさかもしれない」「こんなことで相談していいのかな」とためらう方も多いと思います。でも、どうか思い出してください。相談先の窓口は、片付けの技術だけを教える場所ではありません。家庭全体の困りごとを、一緒に整理してくれる場所です。片付けの悩みの奥には、生活リズムのこと、仕事との両立のこと、心の余裕のことなど、いくつもの事情が重なっていることがほとんどです。そうした背景ごと受け止めてもらえる場所だと考えて、気負わずに連絡してみてください。
相談することへの不安を、もう少しだけ具体的に取り除いておきましょう。窓口に連絡したからといって、いきなり家庭に踏み込まれたり、子どもを預けるよう迫られたりすることはありません。まずは電話や面談で、今の状況や困りごとを話すところから始まります。「うまく話せなくても大丈夫」というくらいの気持ちで、十分です。担当者は、話を聞きながら一緒に状況を整理し、必要であれば片付け支援や家事支援のサービス、地域の福祉窓口など、より専門的な機関につないでくれます。
大切なのは、最初の窓口で完璧な答えが出なくても、そこがゴールではないということです。最初に相談した先が、必ずしもぴったりの支援先とは限りません。それでも、そこから次の適切な相談先につながっていく。そういう仕組みになっていますので、「ここに相談して意味があるのだろうか」と迷いすぎず、まず一歩を踏み出してみてください。
誰にも言えず、一人で抱えていませんか
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家庭でできる工夫|「捨てる」より「戻す」を仕組み化
片付けを続けやすくするコツは、「捨てる」ことより「戻しやすい仕組み」を先に作ることです。難易度の高い「捨てる判断」を後回しにできると、ぐっと取り組みやすくなります。
- 定位置を決める……使うものの置き場所を先に決めておく。迷う工程を減らせる
- 「なんでもBOX」を作る……分類に迷う物は、とりあえず一つの箱に入れてよいことにする
- 範囲を区切って進める……部屋全体ではなく「引き出し一つだけ」など、小さく区切る
- タイマーを使う……「15分だけ」と時間を決めて取り組む
- 子どもと一緒に定位置を決める……おもちゃの置き場所を子どもと相談して決めると、片付けが親一人の仕事にならずにすむ
一度の片付けで終わらせず、仕組みと継続的な助言を
ここで、もう一つ大切なことをお伝えします。片付けの悩みは、一度きれいにすれば解決する、という性質のものではありません。頑張って一日で片付けても、数週間後にはまた元の状態に戻ってしまう。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。
これは、意志の弱さの問題ではありません。片付けを維持するには、「片付いた状態を保つための仕組み」を、その人の特性に合わせて作り込んでいく必要があるからです。一度の片付けは、あくまでスタート地点にすぎません。
だからこそ、単発の片付け作業だけでなく、継続的に相談し、日々の助言を受けられる関係を作っておくことが、とても意味を持ちます。うまくいかなかった仕組みを見直したり、生活の変化に合わせて工夫を調整したり。そうしたやりとりを重ねられる相手がいると、一人で試行錯誤するより、ずっと早く、そして楽に、暮らしやすい状態に近づいていけます。
子ども家庭支援センターや、その先で紹介される支援機関の中には、一度きりの相談で終わらず、継続的に様子を聞きながら伴走してくれるところもあります。「また相談してもいいのかな」とためらう必要はありません。むしろ、「うまくいかなかったので、また相談したい」という連絡こそ、支援する側が待っている言葉です。一度で終わらせず、頼り続けていいのです。



片付けは一度きりでなく、続けやすい仕組みが命です。
そして、忘れないでいただきたいのは、すべてを一人で解決しようとしなくていいということです。家事代行サービスや片付け支援を頼ることは、決して恥ずかしいことではありません。苦手なことを、外の力で補うのも立派な工夫です。



完璧な部屋より、頼れる仕組みを目指しましょう。
ご自身の特性について、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事も参考になります。


仕事や暮らし全体への影響について知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。


片付けの悩み、専門家と一緒に考えませんか
自分に合った工夫の見つけ方も、気持ちの整理も。あなたのペースで、自宅から相談できるのも心強いポイントです。
まとめ
発達特性と片付けの苦手さについて、ポイントを振り返ります。
- ADHDの特性があると、段取り・集中・判断・衝動性の面で片付けが苦手になりやすい
- 社会的には問題なく生活できていても、家の中だけ片付かないことはある。だらしなさの表れではない
- 子どもの生活に影響が出ることはあるが、それでも「ダメな親」ではない
- 子どもの生活に支障が出るほど困っている場合、子ども家庭支援センターへの相談も選択肢の一つ。対応できなくても適切な機関を紹介してもらえる
- 片付けは一度で終わらせず、片付いた状態を保つ仕組みと、継続的な助言を受けられる関係が大切
- 片付けの工夫は「捨てる」より「戻しやすい仕組み」から。定位置・なんでもBOX・区切って進める
- 家事代行や支援を頼ることも、立派な工夫の一つ
片付けられないことは、あなたの努力不足を示すものではありません。特性を知り、仕組みで補い、必要なら人を頼る。それでじゅうぶんです。一人で抱え込まず、その一歩の隣に、伴走できる人がいることを、どうか忘れないでくださいね。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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