「また今夜も眠れない」——そのひと言が、親であるあなたの体にどれだけのしかかっているか。
寝かしつけに1時間、2時間。ようやく寝たと思ったら夜中に起きてくる。翌朝はぐったりして学校へ行けない。そんな夜が何年も続いている、という保護者の方は少なくありません。
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもに睡眠の問題が多いことは、研究でも繰り返し確認されています。でも大切なのは「なぜ眠れないのか」を特性と結びつけて理解すること。原因がわかると、対応の方向も少し見えてきます。
この記事では、ASDの子どもに睡眠の問題が起きやすい理由と、家庭でできる工夫を、公認心理師の立場からお伝えします。私は子ども家庭支援センターで発達障害のある子どもとその家族の支援に携わっています。「なんとかしなければ」と焦るより先に、まず「なぜ眠れないのか」を一緒に考えていきましょう。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもが、毎晩なかなか寝付かず困っている
- 夜中に何度も起きてきて、家族全員が寝不足になっている
- 最近子どもの行動が荒れてきて、睡眠との関係が気になっている
- 「眠れないのは親の関わり方のせい?」と自分を責めてしまっている
ASDの子どもに睡眠の問題が多い理由

まず知っておいていただきたいのは、ASDのある子どもの睡眠の問題は「よくあること」だということです。
2010年から2024年にかけて発表された26本の研究を統合したシステマティックレビュー(Tecar ら、2025)によると、ASDのある子どもの最大83%に何らかの睡眠障害があると報告されています。入眠困難・夜間覚醒・就寝への強い抵抗が最も多く見られるパターンです。
📚 参考研究
Tecar C., Chiperi L.E., Iftimie B.E. ほか(2025). Sleep Disturbances and Behavioral Problems in Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder—A Systematic Review. Clinical Practice (MDPI), 15(11), Article 201.
DOI: 10.3390/clinpract15110201
10人中8人以上、と聞いて少し驚かれたかもしれません。でも、これはASDの特性と睡眠が深く結びついているからです。「うちの子が特別に育てにくいわけではない」「あなたの関わり方が悪いわけではない」——まずそのことを受け取っていただけたら、と思います。
ゆう親のせいではなく、特性と睡眠が深くつながっているんです
感覚過敏が「眠れない体」をつくる
ASDのある子どもの多くに、感覚過敏の特性があります。音・光・におい・温度・寝具の肌触りなど、定型発達の子どもなら気にならない刺激が、強烈なストレスとして感じられることがあります。
たとえば、隣の部屋のテレビの音、布団のちくちくした感触、廊下の照明の漏れ……。これらが気になってしまうと、脳がなかなか「眠る状態」に切り替わりません。
🗒 これはあくまで一般化した事例ですが……
小学3年生のAくんは、毎晩9時に電気を消しても、1時間以上眠れない日が続いていました。「なんで寝ないの!」とお母さんが声を荒げるほどに、Aくんはそわそわして布団の中をごろごろするばかり。あるとき「布団がざらざらしていやだ」とぽつりと言いました。肌触りのよいシーツに替えたその夜、Aくんは30分で眠れたそうです。
「眠りたくない」のではなく、「眠れない」のです。そこを誤解したまま叱ったり急かしたりすると、お子さんはさらに緊張し、ますます眠れなくなってしまいます。
「切り替え」の苦手さが就寝を難しくする
ASDの特性のひとつに、「活動の切り替えが難しい」ことがあります。ゲームや動画、好きな遊びに集中しているとき、「もうやめて寝なさい」と言われても、気持ちがうまく切り替えられません。
これは「わがまま」や「言うことを聞かない」のではなく、脳の切り替え機能がスムーズに働きにくいという特性から来ています。「もう少しだけ」「このキリのいいところまで」が延々と続いてしまうのも、その表れです。
就寝という「活動から非活動への移行」は、実はASDのある子どもにとって、かなり負荷の大きい切り替えです。毎晩それをこなしているお子さんも、見守るあなたも、本当によく頑張っています。
体内時計のリズムが乱れやすい
ASDのある子どもには、夜眠くなる時間が遅い「概日リズムの乱れ」が見られることがあります。これは、眠りを促すホルモン「メラトニン」の分泌が遅れやすい体質と関係していると考えられています。
「早く寝なさい」と言っても眠れないのは、体が「まだ夜じゃない」と感じているからかもしれません。意志の問題でも、しつけの問題でもないのです。



眠れないのは意志や根性の問題ではないんですよ
「うちだけじゃないんだ」——そう思えるだけで、少し楽になることがあります
子どもの睡眠問題で疲弊しているとき、まず親自身が話せる場所を持つことも、大切な一歩です。
睡眠が乱れると「行動」も変わる——見落とされやすいつながり
「最近、昼間の癇癪が増えた」「些細なことでパニックになる」「前よりも暴言が多くなった気がする」——そんなとき、睡眠の乱れが影響しているかもしれません。
先ほど紹介したシステマティックレビュー(Tecar ら、2025)では、入眠困難・夜間覚醒・就寝への抵抗が、攻撃性・多動・感情調節の困難と一貫して関連していることが示されています。つまり、睡眠が十分に取れていないと、ASDのコアな症状がさらに強く表れやすくなる可能性があるということです。
これは大人でも同じです。あなた自身、寝不足が続くと、いつも以上にイライラしたり、判断力が落ちたりしませんか?ASDのある子どもはもともと感情調節に負荷がかかりやすい分、睡眠不足の影響をより強く受けやすいと考えられています。
💡 「行動が荒れてきたら、まず睡眠を確認する」という視点
子どもの行動問題に目が向きがちですが、「ちゃんと眠れているか」を最初に確認することが、意外な近道になることがあります。
親も巻き込まれる「眠れない夜の連鎖」
子どもが眠れないとき、困るのは子どもだけではありません。
毎晩付き合って、翌朝は仕事へ。日中は疲れた状態で子どもの相談ごとや学校対応をこなす。夜になればまた寝かしつけで消耗する——。この繰り返しで、保護者自身が睡眠不足に陥り、心身の余裕がどんどん削られていきます。
「私が疲れているのは仕方ない。子どもが大変なんだから」と自分の消耗を後回しにしていませんか。保護者の疲弊は、子どもへの関わりにも必ず影響します。あなたが休めることは、お子さんのためにもなるのです。



親が消耗していると、子どもも安心できません
悪循環に気づくことが、最初の一歩
「眠れない→行動が荒れる→対応で消耗する→また眠れない」という悪循環は、どこかから断ち切ることができます。すべてを一度に解決しようとしなくていい。まず「睡眠の問題が行動に影響しているかもしれない」と気づくだけで、見え方が少し変わってきます。
家庭でできる睡眠の工夫|特性に合わせて考える


ここからは、家庭でできる具体的な工夫をお伝えします。ただし、「これをやれば必ず眠れる」という正解はありません。お子さんの特性によって、合うものと合わないものがあります。「試してみて、合わなければ変える」くらいの気持ちで読んでいただけたら。
① 環境を整える——感覚過敏への対応から
まず取り組みやすいのが、寝室の環境調整です。感覚過敏のあるお子さんにとって、刺激を減らした「安全な空間」をつくることが、入眠の土台になります。
- 光:遮光カーテンで外の光を遮る。就寝前は部屋の照明を暖色系・低照度に切り替える
- 音:耳栓・イヤーマフを試す。ホワイトノイズや静かな音楽が助けになる子もいる
- 触覚:肌触りの合うパジャマ・シーツを選ぶ(タグを切る、縫い目が少ないものを選ぶ)
- 温度:少し涼しめが眠りに入りやすい。就寝30分前に入浴すると体温調節がしやすい
「完璧な環境」を目指す必要はありません。お子さんが「何が嫌か」を教えてくれるなら、そこから一つずつ試してみてください。
② 就寝前のルーティンをつくる——予測できると安心できる
ASDのある子どもは、「次に何が起きるか予測できる」と安心感が高まる傾向があります。就寝前に毎日同じ流れをつくることで、「この流れが来たら寝る時間」という信号になります。
✅ 就寝前ルーティンの例(20〜30分)
- スクリーンをオフにする(ゲーム・タブレット・スマホ)
- 入浴または足湯
- 照明を暗くする
- 絵本や本を読む(好きなシリーズを毎晩同じように)
- 就寝
ポイントは「毎日同じ順番・同じ時間帯」を守ること。最初は親がつき合う必要がありますが、慣れると子ども自身が動き始めることがあります。
スクリーンタイムについては、ブルーライトがメラトニンの分泌を抑えることが知られています。就寝1〜2時間前のスクリーンオフを目標に、難しければ照明を暖色モードに切り替えるだけでも変化が出ることがあります。



「毎日同じ」が子どもに安心感を届けます
③ 朝の過ごし方が夜の眠りをつくる
夜の睡眠は、実は朝からはじまっています。朝に太陽の光を浴びることでセロトニンが分泌され、夜になるとメラトニンに変換されて眠気を促します。
起床後すぐにカーテンを開ける、短時間でも外に出るなど、「朝の光」を意識するだけで、夜の入眠が変わってくることがあります。日中の適度な身体活動も、夜の深い眠りにつながります。
④ それでも眠れないときは——専門家への相談を
家庭でできる工夫を試しても改善しない場合や、睡眠の問題がかなり深刻な場合は、専門家への相談をためらわないでください。
- かかりつけの小児科:まず相談の入口として。睡眠の問題を伝えると、専門機関を紹介してもらえることがある
- 発達外来・児童精神科:ASDの特性を理解した上で睡眠の問題を診てもらえる
- 睡眠外来:概日リズムの問題が強い場合に専門的なアセスメントが受けられる
また、日本では現在、ASDやADHDのある子どもの睡眠障害に対してメラトニン製剤(メラトベル)が使用されることがあります。薬に頼ることは「負け」ではありません。睡眠が改善することで、日中の行動や家族全体の生活が変わることがあります。薬の使用については必ず主治医と相談してください。
親自身の消耗を防ぐために——あなたが休めることが、お子さんへのケアになる
最後に、このことだけはお伝えしたくて、一つの見出しにしました。
子どもの睡眠問題は、親を確実に消耗させます。毎晩の寝かしつけ、夜中の対応、寝不足のまま迎える翌朝——それが何ヶ月、何年と続くとしたら、どれほど大変か。「でも子どものためだから」と自分の疲れを後回しにしてきた方も多いと思います。
でも、あなたが消耗しきっていると、子どもへの関わりも変わってきます。それは意志が弱いからでも、愛情が足りないからでもない。消耗した状態では、誰だってうまくいかないのです。
だから、あなた自身が休むこと、誰かに話すこと、ひとりで抱え込まないことは、お子さんへの最大のケアのひとつでもあります。
💡 「誰かに話す」だけでも、変わることがあります
「うちの子だけ?」「こんなことを相談していいの?」と思っているなら、まず話してみてください。専門家に話すことで、状況の整理ができたり、新しい視点をもらえたりします。「答え」が出なくても、ひとりじゃないと感じられることが、次の一歩につながります。



一人で抱えなくていい。話すことが次の一歩になります
子どもの眠れない夜に疲れ果てているなら、あなた自身の話を聞いてもらいませんか
うららか相談室では、発達障害のある子どもへの対応や、育児疲れについてオンラインで公認心理師などの専門家に相談できます。スマホから、自分のペースで。
まとめ
- ASDのある子どもの最大83%に睡眠の問題があると報告されており、珍しいことではない
- 眠れない背景には感覚過敏・切り替えの苦手さ・体内時計のリズムのズレという特性がある
- 睡眠の乱れは攻撃性や感情調節の困難と一貫して関連しており、行動が荒れたときは睡眠を確認する視点が大切
- 家庭でできる工夫は「環境調整」「ルーティン」「朝の光」の3つが基本
- 改善しない場合は小児科・発達外来・睡眠外来への相談をためらわない
- 親自身が休むこと、話すことも、子どもへのケアのひとつ
眠れない夜が続いているなら、それはお子さんも、あなたも、本当によく頑張ってきた夜です。ひとりで抱え込まず、少しずつ、できることから試してみてください。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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