「起こすべきか、それとも寝かせておくべきか」
毎朝、布団の前に立つたびに、その判断に迷っていませんか。何度も声をかけて、揺すって、それでも起きない我が子を前に、いら立ちと不安がない交ぜになる。「怠けているだけなら叱るべき」「でも、もし体調が悪いのだとしたら」──答えの出ない問いを、あなたは毎朝繰り返しているのではないでしょうか。
私は子ども家庭支援センターの公認心理師として、不登校のお子さんにことで悩む親御さんの相談にかず多く応じてきました。この記事では、「起こす・起こさない」の判断基準を軸に、心理的な要因と身体的な要因(起立性調節障害)の見分け方、そして親が今日からできる関わり方をお伝えします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 毎朝「起こすべきか、寝かせるべきか」の判断に迷っている方
- 「怠けているのでは」と感じながらも、確信が持てない方
- 起立性調節障害という言葉が気になっているが、見分け方がわからない方
- 昼夜逆転が続き、どう関わればいいか分からなくなっている方
不登校全体の原因や対応の流れについては、こちらの柱記事も参考にしてください。

「起こす・起こさない」で迷うのは、あなただけではない

この判断に迷うのは、あなたの育て方や覚悟が足りないからではありません。起こすべきかどうかの答えは、そもそも「一つ」ではないからです。
文部科学省委託事業として公益社団法人子どもの発達科学研究所が実施した「不登校の要因分析に関する調査研究」(2024年)では、不登校の子どもたちとその保護者の約7〜8割が「夜眠れない・朝起きられない」という状態を経験していたと回答しています。
つまり、この「起こす・起こさない」の葛藤は、不登校の子を持つ多くの家庭が通る道です。まず、あなただけが特別に悩んでいるわけではないと知ってください。
ゆう迷うこと自体が、お子さんのことを真剣に考えている証拠です。
判断基準①|心理的な理由なのか、身体的な理由なのか
「起こす・起こさない」を判断する上で、まず整理したいのが、朝起きられない理由が心理的なものか、身体的なものかという軸です。この2つでは、望ましい対応が変わってきます。
心理的な理由が背景にあるサイン
不登校の子どもにとって、朝という時間は特別につらい時間帯です。友達が学校に向かう時間、自分だけが取り残されているような感覚、「行けない自分はダメだ」という罪悪感──そういった気持ちが、朝に集中して押し寄せてきます。その結果、無意識のうちに「朝を眠って過ごそうとする」という心理的な防衛反応が働くことがあります。
これはあくまで一般化した事例ですが、中学2年生のAさんは、対人関係のストレスをきっかけに不登校になりました。昼間は「学校に行けていない自分」への罪悪感が強く、起きているのがつらい。夜中はその感覚が薄れ、ゲームをして過ごすことで気を紛らわせていました。親からは「ゲームのせいで昼夜逆転した」と見えていましたが、実は逆で、昼間を避けるためにゲームに向かっていたのです。
身体的な理由(起立性調節障害)が背景にあるサイン
心理的な理由だけではなく、身体的な原因が隠れていることもあります。その代表が「起立性調節障害(OD)」です。自律神経の調節がうまくいかないことで、朝に血圧が上がりにくくなる状態で、思春期に多く見られます。本人が「起きたくても身体が起きられない」という、意志ではコントロールできない状態です。
⚠️ こんな様子が続くときは、身体的な要因を疑ってください
- 無理に起こすと気分が悪くなる・嘔吐する
- 立ち上がると立ちくらみやふらつきが強い
- 午後〜夕方になると比較的元気になる
- 頭痛・腹痛・倦怠感が慢性的に続いている
診断は医師の領域です。「もしかして」と思ったら、まずかかりつけの小児科に相談してみてください。



「怠け」に見える姿の裏に、意志では止められない身体の反応が隠れていることがあります。
判断基準②|今、無理に起こすとどうなるか


心理的な理由か身体的な理由かにかかわらず、共通して言えることがあります。それは、「無理に起こすこと」が、関係を悪化させるリスクの方が大きいということです。
「起こさなければ」という強迫的な気持ちは、よくわかります。でも、強引に起こそうとすることで親子の関係が険悪になり、子どもの回復をかえって遅らせてしまうことがあります。今の昼夜逆転は、子どもが心身を守るための一時的な状態です。完全に放置するわけではありませんが、まずは「起こすことへの執着」を少し手放してみることを試してみてください。
❌ 逆効果になりやすい声かけ
- 「いつまで寝てるの!」
- 「みんなはもう学校行ってるよ」
- 「そんな生活してたら将来どうするの」
→ 子どもはすでに「行けていない自分」を責めています。これらの言葉は、その罪悪感をさらに深めてしまいます。
⭕ 試してみてほしい声かけ
- 「おはよう」とだけ言って、そのまま立ち去る
- 「何か食べたくなったら言ってね」と短く伝える
- 昼過ぎに起きてきたとき、「おはよう」と普通に迎える
→ 起きた時間を責めないことで、「起きてもいい」という安心感が少しずつ生まれます。
生活リズムを整えるために、できることから少しずつ
子どもの心が少し落ち着いてきたと感じたら、生活リズムを少しずつ整えていく働きかけができます。ただし、「早く治さなければ」と焦って一気にやろうとすると、かえってうまくいきません。
💡 少しずつ試せること
- 起きる時間を少しずつ(15〜30分ずつ)早める
- 午前中に短時間でも日光を浴びる機会をつくる
- 就寝前1〜2時間はスマホから離れる時間を提案してみる
- 日中に短い外出(散歩・コンビニ)を取り入れてみる
子どもが「やってみる」と言えたことから、無理なく始めましょう。
また、スマホやゲームの影響も無視できません。ただし「ゲームをやめさせれば解決する」と考えると、子どもとの衝突を招くだけになりやすいです。まず「なぜゲームに向かっているのか」を考えることが大切です。ゲームへの向き合い方については、こちらの記事も参考にしてください。





「昼夜逆転を治すこと」より「子どもとの関係を守ること」を優先してほしいです。リズムは後からついてきます。
それでも長引くとき|相談の目安と選択肢


「関わり方を変えてみたけど、何か月も状態が変わらない」「子どもが日に日に元気をなくしている」──そんなときは、一人で抱え込まずに専門家に相談することを考えてみてください。
⚠️ 次のような状態が続くときは、早めに相談を
- 昼夜逆転が3か月以上続き、改善の兆しがない
- 子どもが「消えたい」「死にたい」などの言葉を口にする
- 食事をほとんど取らない、体重が大きく変わっている
- 起立性調節障害が疑われる身体症状が強い
- 親自身が限界に近いと感じている
身体的な症状が強い場合はかかりつけの小児科、または小児神経科・思春期外来が窓口になります。心理面や親自身の不安を整理したいときは、スクールカウンセラーや子ども家庭支援センター、オンラインカウンセリングが選択肢になります。相談先の選び方全般はこちらの記事も参考にしてください。


「子どもを連れていかなくていい、まず親だけ話を聞いてもらう」という使い方でも十分です。
まとめ
- 「起こす・起こさない」で迷うのは、多くの家庭が通る自然な道
- 朝起きられない理由には、心理的なものと身体的なもの(起立性調節障害)がある
- 無理に起こすことは、関係悪化のリスクの方が大きい
- 「起きた時間を責めない」声かけが、子どもの安心感につながる
- 生活リズムは、焦らず少しずつ。子どもの「やってみる」から始める
- 3ヶ月以上改善がない・身体症状が強いときは早めに専門家へ
昼夜逆転している子どもを見て、不安になる気持ちはよくわかります。でも、「起こすこと」を目標にするより、「子どもが安心できる関係を保つこと」を最初の一歩にしてみてください。リズムは、心が落ち着いてきてから少しずつ整ってくることが多いです。あなたが今、こうして情報を調べていること自体、十分な親心だと思います。
まず親だけでも、話してみてください
子どもを連れていかなくても大丈夫。あなた自身の不安や疲れを、まず誰かに聞いてもらうことが最初の一歩になります。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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