「WISCの結果を見て、この子はASDではないかと感じた」——そう思われた保護者の方は、決して少なくありません。
処理速度の数値が低かったり、指標の凸凹が大きかったりすると、つい発達障害と結びつけて考えてしまいがちです。ですが、その見方には注意が必要です。
この記事では、ASDのWISCプロフィールについて研究で分かっていること、そしてその限界を、公認心理師の私が根拠とともにお伝えします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- WISCの結果を見て「この子はASDでは」と感じた方
- 処理速度の低さや指標の凸凹が、発達障害と関係あるのか知りたい方
- ASDのWISCプロフィールについて、正確な情報を知りたい方
- ネットの情報だけで判断することに不安を感じている方
結論:WISCの結果だけでは、ASDかどうかはわかりません
先に結論をお伝えします。WISCの結果だけで、お子さんがASD(自閉スペクトラム症)かどうかを判断することはできません。「処理速度が低いから」「このプロフィールだから」という見方だけで、ASDと決めつけることはできないのです。
WISCはあくまで知能検査であり、発達障害の診断を目的とした検査ではありません。ASDの診断は、生育歴の聞き取りや行動観察、医師による総合的な判断によって行われます。
とはいえ、WISCの結果を見て「この子はASDでしょうか」と感じる保護者の方は少なくありません。この記事では、研究で報告されているASDのWISCプロフィールの傾向を、根拠とともに丁寧にご紹介します。
ゆう
なぜ専門家でも意見が分かれるのか|研究に一貫性がない理由
実は、ASDのWISCプロフィールについては、専門家の間でも十分に整理されているとは言えません。理由は、研究によって報告される傾向が一貫していないからです。
ある研究では特定の指標が低いという結果が出ても、別の研究では同じ指標がむしろ高いという結果が出ることもあります。ASDという診断名は非常に幅広い特性を含んでおり、一人ひとりの認知の特徴も大きく異なるためです。
「詳しい専門家に聞けばはっきりわかるはず」と感じるのは自然なことですが、そもそも研究の土台自体に、まだ一貫した結論が出ていないというのが実情です。
研究に一貫性がないからこそ、断定的な見方は危険です。
研究でわかっている代表的な傾向
そのうえで、比較的よく報告されている傾向をご紹介します。あくまで「集団としての傾向」であり、目の前のお子さんに当てはまるとは限らない点に注意してお読みください。
なお、ここでご紹介する研究の多くは、「CHC理論」と呼ばれる、知能の構造に関する学術的な枠組みを用いて分析されています。WISC-Ⅴの5つの指標も、このCHC理論を土台に設計されており、研究の信頼性を考えるうえでの一つの目安になります。
①処理速度指標(PSI)が低くなりやすい傾向
これまでの複数の研究をまとめた総括があります。自閉性障害、アスペルガー障害、ASD、広汎性発達障害(PDD)のいずれの診断名であっても、処理速度指標が低くなりやすいことが報告されています。ASDのWISCプロフィールに関する知見の中では、比較的再現性が高いとされる傾向です。
処理速度指標は、記号を書き写したり、図形を素早く見分けたりする課題で構成されています。単純な作業を素早くこなす力を測るこの指標が低くなりやすい背景には、いくつかの要因が関係していると考えられています。視覚的な情報処理のスピードや、細かい手先の動きに、人より時間がかかりやすいという、ASDに比較的共通する特性です。
出典
岡田智・飯利知恵子・安住ゆう子・大谷和大(2021)「自閉症スペクトラム障害における日本版WISC-Ⅳの認知プロフィール―Cattell-Horn-Carroll理論によるサブタイプの検討―」教育心理学研究, 69(3), 254-267.
②タイプによる言語理解と知覚推理の高低差
同じ研究では、診断名の下位分類によって、言語理解指標と知覚推理指標の高低の関係が逆転することも報告されています。
ゆう「知覚推理」はWISC-Ⅳの指標です。WISC-Ⅴでは「視空間」と「流動性推理」に分かれました。
アスペルガー障害(知的な遅れを伴わず、言葉の発達にも大きな遅れがなかったタイプに近い、以前の分類)では、言語理解指標が知覚推理指標より高くなる傾向があります。一方、自閉性障害(言葉の発達に遅れが見られることが多かった、以前の分類)では、反対に言語理解指標が知覚推理指標より低くなる傾向が見られます。
同じ「ASD」という大きな診断名の中でも、以前の分類による違いによって、認知的な特徴が異なる可能性を示す結果だといえます。
出典
岡田智・飯利知恵子・安住ゆう子・大谷和大(2021)「自閉症スペクトラム障害における日本版WISC-Ⅳの認知プロフィール―Cattell-Horn-Carroll理論によるサブタイプの検討―」教育心理学研究, 69(3), 254-267.
実際の事例でも、この傾向に近いプロフィールが報告されています。ASDとADHDを併せ持つ小学5年生の男児の事例です。言語理解指標と知覚推理指標が高く、ワーキングメモリー指標と処理速度指標が低いプロフィールが確認されています。①でご紹介した処理速度の低さとも重なる結果です。
出典
木谷秀勝(2017)「自閉症スペクトラム障害へのWISC-Ⅳの臨床的活用」山口大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要, 43, 47-.
③個人差が大きく、単一のプロフィールは存在しない
先ほどご紹介した岡田ら(2021)の研究では、別の分析も行われています。ASDのある子ども116名(平均年齢9.37歳)のWISC-Ⅳのデータを、統計的な手法(クラスター分析)でグループ分けする分析です。
その結果、5つの異なるパターン(クラスター)が見つかっています。言語能力や視覚空間能力が高く、処理速度が低いという、従来報告されてきたプロフィールに近いグループも見つかりました。
一方で、ワーキングメモリーの得点が低くなりやすい傾向はあるものの、短期記憶に強みがあるグループも存在していました。視覚空間の力と、法則を見つける力との間に、大きな差があるグループも見られました。
出典
岡田智・飯利知恵子・安住ゆう子・大谷和大(2021)「自閉症スペクトラム障害における日本版WISC-Ⅳの認知プロフィール―Cattell-Horn-Carroll理論によるサブタイプの検討―」教育心理学研究, 69(3), 254-267.
つまり、「ASDらしいプロフィール」に当てはまる子どもは一部にとどまり、実際には非常に多様だということが、研究によって示されているのです。5つのクラスターという結果自体が、ASDを一つの決まったプロフィールで語ることの難しさを物語っています。


一人で抱え込まないで
お子さんのことも、ご自身のことも、話せる場所があります
「プロフィールが当てはまる=ASD」と考えてはいけない理由


ここまでご紹介した傾向は、あくまで「ASDと診断された子どもたちの集団を平均すると、こういう傾向が見られやすい」という統計的な話です。
逆から見ると、「処理速度が低い」「このプロフィールに近い」というだけで、目の前のお子さんがASDだと判断することはできません。処理速度が低い子どもの中には、ASDとは関係のない要因を抱えている子も多くいます。
プロフィールの一致は、診断の根拠にはなりません。
WISCの結果は、あくまで「気になるサインの一つ」として受け止め、最終的な判断は医師などの専門家に委ねることが大切です。
気になるときは、どうすればいい?
WISCの結果を見て「もしかして」と感じたときは、一人で抱え込まず、専門家に相談することをおすすめします。
- 医療機関(児童精神科・小児科など)で相談する
- 発達支援センターや教育相談機関に相談する
- 学校のスクールカウンセラーに相談する
いずれの場合も、WISCの結果だけでなく、生育歴や日常での様子など、幅広い情報をもとに総合的に判断してもらうことが大切です。相談先の選び方については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。


今日からできる一歩を、一緒に考えませんか
専門家に話すことで、見えてくることがあります
まとめ
この記事のまとめ
- WISCの結果だけでは、ASDかどうかは判断できません
- 研究では、処理速度が低くなりやすい傾向が比較的よく報告されています
- タイプによって、言語理解と知覚推理の高低差が異なることもあります
- 個人差が非常に大きく、単一の「ASDプロフィール」は存在しません
- 気になるときは、専門家に総合的な判断を相談することが大切です
プロフィールの向こうにいる、その子自身を見てあげてください。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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