同じ出来事なのに、ひどく落ち込む日と、わりと平気な日がある。「もうダメだ」と思い始めると、気分がどんどん沈んでいく——。そんな経験はありませんか。
実は、私たちの気持ちを大きく左右しているのは、出来事そのものよりも「その出来事をどう受け取ったか(考え方)」です。この「考え方のクセ」に気づいて整える方法が、認知行動療法です。専門家と行うイメージが強いかもしれませんが、ポイントを知れば、自分でも取り入れられます。
私は公認心理師として、考え方のクセに苦しむ方とたくさん向き合ってきました。この記事では、自分でできる認知行動療法のやり方を、3つの方法にしぼってやさしくお伝えします。むずかしい専門用語は使わないので、気楽に読んでみてくださいね。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- 同じことでも、つい悪いほうに考えて落ち込んでしまう方
- 「考え方のクセ」を、自分で整えられるようになりたい方
- 認知行動療法に興味があるけれど、難しそうで踏み出せない方
- 通院の前に、まず自分でできることを試してみたい方
認知行動療法とは?

認知行動療法とは、物事の受け取り方(認知)と行動に働きかけて、気持ちを楽にしていく心理療法です。1970年代にアメリカで生まれ、日本でも2010年から、うつ病などの治療として保険診療に認められている、確かな方法です。
たとえば、試験で残り10分のとき。「あと10分もある」と思うか「あと10分しかない」と思うかで、感じる焦りはまるで違います。同じ出来事でも、受け取り方しだいで、気持ちも行動も変わる。この「受け取り方」に目を向けて、少しずつ整えていくのが認知行動療法です。
大切なのは、無理にポジティブになることではありません。「事実」と「自分の解釈」を分けて、より現実的でバランスの良い見方を探すこと。それが、気持ちを楽にする近道になります。
ゆうつらいのは、あなたが弱いからではなく、考え方のクセのせいかもしれません。
認知行動療法の基本モデル
認知行動療法では、ストレスを感じたときの心の動きを、4つの領域に分けて考えます。
- 認知…頭に浮かぶ考えやイメージ(例:「私はダメだ」)
- 感情…そのとき感じる気持ち(例:不安、落ち込み、イライラ)
- 身体反応…体に出る反応(例:動悸、頭痛、涙)
- 行動…実際の振る舞い(例:避ける、引きこもる)
この4つは、たがいに影響し合っています。否定的な考えが浮かぶと、気分が沈み、体が重くなり、行動も消極的になる。すると「やっぱり自分はダメだ」とさらに考えが沈み、悪循環が生まれます。
認知行動療法は、この輪のどこかにやさしく働きかけて、流れを変えていきます。考えを変えるのが難しければ、行動から変えてもいい。どこから手をつけてもいいのが、この方法の心強いところです。
自分でできる認知行動療法・3つの方法


ここからは、専門知識がなくても始められる方法を3つ紹介します。どれも、まず一つだけ試してみるのがおすすめです。
①セルフモニタリング(気づいて書く)
出発点は「自分の状態に気づくこと」です。気分が動いたとき、「どんな出来事で・何を考え・どう感じたか」をメモします。評価も反省もいりません。スマホのメモでも、手帳の端でも大丈夫。ただ書き留めるだけで、頭の中のモヤモヤが整理され、自分の考え方のクセが、だんだん見えてきます。
②コラム法(別の見方を探す)
書き出した考えに対して、「ほかの見方はないかな?」とやさしく問い直します。たとえば、友人から返信が来ないとき。
- 出来事…LINEの返信が来ない
- 浮かんだ考え…「嫌われたのかもしれない」
- 別の見方…「忙しいのかも」「通知を見落としているのかも」
このように可能性を並べてみると、最初の考えが「たくさんある見方の一つ」にすぎないと気づけます。考えを否定するのではなく、選択肢を増やすのがコツです。この「別の見方を探す」練習は、リフレーミングとも深くつながっています。


③行動活性化(小さく動いてみる)
気分が沈むと、人は動けなくなり、さらに沈むという悪循環に入ります。そこで、「やってみたら少し気分が上がった」という小さな行動を意図的に増やします。散歩、好きな飲み物、短い片づけ、好きな音楽を1曲。
ポイントは、「やる気が出てから動く」のではなく「動いてみてからやる気が出る」という順番です。気分よりも、行動のほうが自分で変えやすい。だからこそ、ほんの小さな一歩から始めるのが効果的です。
これはあくまで一般化した事例ですが、子どもの忘れ物が続くたびに「私の育て方が悪い」と自分を責め、落ち込んでいた方がいました。コラム法で書き出してみると、「別の見方」として「子どもが成長の途中なだけ」「仕組みで防げるかも」と並べられたそうです。すると気持ちが少し軽くなり、玄関に持ち物リストを貼るという小さな行動に移れました。考え方を少しほぐすだけで、次の一歩が踏み出しやすくなることがあります。
ひとりで取り組むのが難しいと感じたら
考え方のクセは、自分ひとりだと気づきにくいものです。専門家と一緒なら、客観的な視点が得られます。オンラインなら、自宅から自分のペースで相談できますよ。
「考え方のクセ」のパターンを知る
自分でできる認知行動療法の第一歩は、よくある考え方のクセを知っておくことです。代表的なものを挙げます。
- 白黒思考…「完璧でなければ意味がない」と、ゼロか百かで考える
- すべき思考…「〜すべき」「〜でなければ」と自分を追い込む
- 過度の一般化…一度の失敗で「いつもこうだ」と決めつける
- レッテル貼り…「自分はダメな人間だ」と決めつけてしまう
- 心のフィルター…うまくいったことは見えず、悪い面ばかりに目がいく
こうしたクセは、誰にでもあるものです。大切なのは、なくすことではなく「あ、今クセが出たな」と気づくこと。気づけたら、別の見方を探す余裕が生まれます。まずは自分がどのクセを持ちやすいか、知っておくだけでも十分な一歩です。マイナス思考が止まらないときの対処は、こちらの記事もあわせてご覧ください。


おすすめのワークブックと、つらいときの相談先


もっと体系的に取り組みたい方には、書き込み式のワークブックが役立ちます。次の一冊は、症状のある方はもちろん、一般の人がストレスと上手に付き合うためにも作られた、認知療法の定番です。図表やイラストが多く、何から始めればいいか迷う方でも、手を動かしながら学べます。
なお、認知行動療法はセルフでも取り組めますが、気分の落ち込みが強い・長く続く・つらくて動けないといったときは、ひとりで抱えず、医療機関に相談してください。専門家のサポートを受けることは、決して特別なことではありません。むしろ、回復への確実な一歩です。
まとめ
今日お伝えしたことを、最後に振り返っておきますね。
- 認知行動療法は、考え方と行動に働きかけて気持ちを楽にする方法
- 気持ちは出来事より「受け取り方(認知)」に左右される
- 自分でできる3つの方法は、気づく・別の見方を探す・小さく動く
- 考え方のクセは、なくすより「気づく」ことが第一歩
- つらさが強い・長引くときは、ためらわず医療機関に相談を
考え方のクセは、長年の習慣なので、すぐには変わりません。それでも、「あ、またこう考えてるな」と気づけた瞬間に、心には小さな余白が生まれます。その余白が、少しずつあなたを楽にしてくれます。あなたのペースで、できそうな方法を一つ、今日から試してみてくださいね。
考え方のクセを、専門家と一緒に整えませんか
「自分の考えが偏っているのか分からない」というときこそ、第三者の視点が役立ちます。気持ちを話すだけでも、心がふっと軽くなることがありますよ。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター
