「言ったばかりなのに、もう忘れている」「宿題の準備物を何度言っても覚えていない」——そんな毎日に、疲れを感じていませんか。
WISCの結果で「ワーキングメモリー」の数値が低いと言われ、戸惑っている方もいらっしゃると思います。「言われたことをすぐ忘れる」は、性格でもしつけの問題でもありません。
この記事では、ワーキングメモリーが低いとはどういうことか、日常での現れ方と、家庭・学校それぞれでできる工夫を、公認心理師の私がお伝えします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- WISC-Ⅴの結果で「ワーキングメモリー」の数値が低かった方
- 子どもが「言われたことをすぐ忘れる」と感じている方
- 指示が一度で通らず、何度も言い直している方
- 忘れっぽさをしつけの問題と誤解されて悩んでいる方
ワーキングメモリーとは?WISCの指標が測っている力

「ワーキングメモリー」とは、必要な情報を短い時間だけ頭の中にとどめながら、それを使って考えたり作業を進めたりする力のことです。
たとえるなら、頭の中に「作業台」があるとイメージしてみてください。作業台が広ければ、いくつもの情報を同時に置きながら、見比べたり整理したりする作業がしやすくなります。反対に作業台が狭いと、置ける情報の量に限りがあり、新しい情報が入ってくると、それまで置いていた情報がこぼれ落ちてしまいます。
WISC-Ⅴでは、この「作業台の広さ」を数値として示しています。数値が低いということは、作業台がやや小さめだということであり、能力そのものが劣っているという意味ではありません。
ゆう
補足
WISC-Ⅴでは、数字を聞いて覚える課題や、絵を見て記憶する課題などを通して、ワーキングメモリーの働きを測定します。得点が低いことは、能力が「足りない」という意味ではなく、情報を保持する容量に個人差があるということです。
また、ワーキングメモリーは単独で働くわけではありません。聞く力や注意を向ける力とも関わり合いながら、日々の学習や生活を支えています。数値だけを見て一喜一憂するのではなく、他の指標とのバランスも含めて捉えることが大切です。
なお、検査当日の体調や緊張、集中の続きにくさなども、結果に影響することがあります。一度の数値がすべてを決めるわけではないという点も、あわせて知っておいていただきたいことです。WISCの信頼性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

ワーキングメモリーが低いと、日常で何が起きる?
ワーキングメモリーが低いと、さまざまな場面で困りごとが表れることがあります。場面ごとに、よく見られる現れ方をご紹介します。
家庭で見られる場面
- 「さっき言ったのに」と感じる場面が多く、会話がかみ合いにくくなる
- 片付けや身支度の途中で、何をしていたか分からなくなる
- 「お風呂に入ったら歯を磨いて」のような二段階の指示で、後半を忘れてしまう
学校で見られる場面
- 先生の指示を最後まで覚えていられず、が追いつかない
- 持ち物の連絡を聞いても、下校するころには忘れてしまう
- 算数の文章題で、数字を覚えながら計算する作業に時間がかかる
友達関係で見られる場面
- 遊びの中で決めたルールを途中で忘れてしまい、「ずるをした」と誤解される
- 友達との約束の内容を覚えておくのが苦手で、話が食い違ってしまう
- 大人数での会話について行けず、話題から置いていかれたように感じる
習い事で見られる場面
- スポーツや楽器で、いくつかの動作を順番通りに覚えるのに時間がかかる
- 先生の口頭説明だけでは、手順がなかなか定着しない
- 持ち物や次回までの課題を忘れてしまうことがある
複数の指示を一度に出すと、途中で忘れてしまいやすくなります。
「わざと聞いていない」のではなく、保持できる情報量に限りがあるのです。
これはあくまで一般化した事例ですが〜、小学3年生のAさん(仮名)のお話です。朝の準備で「連絡帳を出して、宿題を提出箱に入れて」と伝えると、連絡帳を出したところで次の行動を忘れてしまうことがよくありました。保護者の方は「何度言っても覚えない」と悩んでいましたが、一つずつ短く伝える工夫を始めてから、少しずつ行動がスムーズになっていったそうです。
ゆう
一人で抱え込まないで
お子さんのことも、ご自身のことも、話せる場所があります
家庭でできる工夫|負担を減らす関わり方

ワーキングメモリーの負担を減らす工夫は、特別なことではありません。日々のちょっとした関わり方の工夫で、お子さんの「できた」を増やすことができます。
💡 家庭での工夫、4つのポイント
- 指示は一度に一つずつ、短い言葉で伝える
- メモや付箋など、目に見える形で残す
- チェックリストを使い、持ち物や準備を視覚化する
- 一区切りごとに「できたね」と声をかけ、達成感を積み重ねる
それぞれの工夫について、もう少し具体的にお伝えします。
指示は一度に一つずつは、「連絡帳を出して」だけを伝え、それができてから次の行動を伝える方法です。手間はかかりますが、一つひとつの成功体験につながります。
メモや付箋は、頭の中の作業台の代わりを紙の上に作るイメージです。玄関やランドセルの内側など、目につく場所に貼ると効果的です。
チェックリストは、持ち物や朝の準備の手順を絵や文字で並べたものです。お子さん自身が見ながら確認できるため、保護者が毎回声をかける負担も減っていきます。
大切なのは、お子さんの努力不足を責めることではなく、覚えやすい環境を一緒に整えていくことです。
学校にお願いできる配慮、そして専門家への相談
家庭での工夫だけでなく、学校の先生に特性を伝え、配慮をお願いすることも大きな助けになります。「合理的配慮」という言葉を使うと、先生にも意図が伝わりやすくなります。
学校にお願いしたい配慮の例
- 指示を出したあと、メモを取る時間を少しとってもらう
- 口頭だけでなく、あらかじめ要点を書いたプリントを配ってもらう
- 持ち物や宿題の連絡を、連絡帳だけでなく黒板にも残してもらう
- 指示は一度に一つずつ、区切って伝えてもらう
すべてを一度にお願いする必要はありません。お子さんが特に困っている場面から、一つずつ相談してみるとよいでしょう。「合理的配慮」の相談の仕方については、別記事でも詳しくご紹介しています。

一人で抱え込まず、スクールカウンセラーや専門家に相談することも、大切な選択肢の一つです。ご家族だけで頑張りすぎず、周りの支えを借りながら向き合っていく視点も大切にしてください。

今日からできる一歩を、一緒に考えませんか
専門家に話すことで、見えてくることがあります
まとめ
この記事のまとめ
- ワーキングメモリーは「頭の中の作業台」の広さを表す力です
- 数値が低いことは「能力不足」ではなく、個人差の一つです
- 家庭・学校・友達関係・習い事など、場面によって現れ方は異なります
- 家庭では、情報を減らして視覚化する工夫が助けになります
- 学校には、メモの時間やプリント配布など具体的な配慮を相談できます
「忘れてしまう」その裏にある頑張りに、まず気づいてあげてください。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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