「板書を写し終わる前に、次の内容に進んでしまう」「テストはいつも時間切れ」——お子さんのそんな様子に、もどかしさを感じていませんか。
WISCの結果で「処理速度」の数値が低いと言われ、戸惑っている方もいらっしゃると思います。「動作がゆっくり」なのは、やる気の問題ではありません。
この記事では、処理速度が低いとはどういうことか、日常での現れ方と、家庭・学校それぞれでできる工夫を、公認心理師の私がお伝えします。
📖 こんな方に読んでほしい記事です
- WISC-Ⅴの結果で「処理速度」の数値が低かった方
- 子どもの動作や作業が「いつもゆっくり」だと感じている方
- テストや宿題がいつも時間切れになってしまう方
- 「もっと急いで」と言い続けることに疲れてしまった方
処理速度とは?WISCの指標が測っている力

「処理速度」とは、目で見た単純な情報を、素早く正確に処理していく力のことです。文字を書き写す、記号を見分ける、といった作業のスピードや正確さがこれにあたります。
同じ道を歩くにも、人によって歩くペースが違うように、情報を処理するスピードにも一人ひとりの個性があります。ゆっくりであることは、間違っていることでも、劣っていることでもありません。
ただし、処理速度が低いという結果は、一つのタイプだけを指すわけではありません。大きく分けると、次の2つのタイプが見られます。
- じっくり丁寧に取り組む分、人より時間がかかるタイプ
- スピードを優先するあまり、確認や見直しが省略され、誤りが増えてしまうタイプ
同じ「処理速度が低い」という結果でも、内容はまったく違います。この記事では、ゆっくり丁寧なタイプを中心にお伝えしますが、早くて雑になりやすいタイプについても、それぞれの場面でふれていきます。
WISC-Ⅴでは、こうした情報処理のペースや正確さを数値として示しています。数値の低さだけで、お子さんがどちらのタイプかを判断することはできません。日頃の様子とあわせて見ていくことが大切です。
ゆう
補足
WISC-Ⅴでは、記号を書き写す課題や、決められた図形を見分ける課題などを通して、処理速度を測定します。これらの課題はスピードだけでなく正確さも採点に関わるため、急いで取り組んで誤りが多くなった場合も、得点が伸びにくくなります。得点が低いことは、理解力や思考力とは別の指標であり、考える力そのものを示すものではありません。
また、処理速度が低くても、じっくり考える力や豊かな発想力を持っているお子さんは少なくありません。速さだけでお子さんの力を判断しないよう、他の指標とのバランスも合わせて見ていくことが大切です。
なお、検査当日の体調や緊張、集中の続きにくさなども、結果に影響することがあります。一度の数値がすべてを決めるわけではないという点も、あわせて知っておいていただきたいことです。WISCの信頼性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

処理速度が低いと、日常で何が起きる?
処理速度が低いと、さまざまな場面で困りごとが表れることがあります。場面ごとに、よく見られる現れ方をご紹介します。
家庭で見られる場面
- 着替えや食事など、朝の身支度に人一倍時間がかかる
- 宿題に取りかかっても、なかなか終わらない
- 「早くして」と急かされることが多く、本人も自信をなくしていく
- 反対に、宿題を早く終わらせるものの、字が雑だったり間違いが多かったりする
学校で見られる場面
- 板書を写し終わる前に、次の内容へ進んでしまう
- テストで、内容は理解していても時間切れになってしまう
- 単純な計算問題や漢字練習に、他の子より時間がかかる
- 逆に、テストは誰より早く提出するが、見直しをせずケアレスミスが目立つ
友達関係で見られる場面
- 会話や遊びのテンポについていけず、反応が一歩遅れてしまう
- グループでのゲームや作業で、「遅い」とからかわれることがある
- 周りを気にして、発言や行動をためらいがちになる
- 逆に、話や行動が早すぎて、順番を間違えたり早合点したりトラブルになることがある
習い事で見られる場面
- 楽譜や振り付けを目で追うのに時間がかかり、周りとずれてしまう
- スポーツで、とっさの判断や動きへの切り替えが苦手なことがある
- 周りのペースに合わせようと焦ってしまい、かえってミスが増える
- 動き自体は速いが、細かい部分が雑になり、やり直しが増えることもある
「急いで」という声かけは、かえって焦りやミスにつながることがあります。
「やる気がない」のではなく、処理に必要な時間そのものが人より長いのです。
「早いのに間違いが多い」場合も、ふざけているわけではなく、確認の工程が抜けやすい特性です。
これはあくまで一般化した事例ですが〜、小学4年生のBくん(仮名)のお話です。テストではいつも最後の問題まで解ききれず、「頭が悪いのかな」と本人が気にするようになっていました。保護者の方が学校に相談し、時間を少し多めにもらえるようになってから、実力を発揮できる場面が増えていったそうです。
反対のタイプの例もご紹介します。小学5年生のCさん(仮名)は、テストをいつも一番に提出していましたが、見直しをしないため単純な計算ミスが多く、点数が伸び悩んでいました。「早く終わらせたら見直しをする」という一手間を習慣にしてから、ミスが少しずつ減っていったそうです。
ゆう
一人で抱え込まないで
お子さんのことも、ご自身のことも、話せる場所があります
家庭でできる工夫|負担を減らす関わり方

処理速度の負担を減らす工夫も、特別なことではありません。日々のちょっとした関わり方の工夫で、お子さんの「できた」を増やすことができます。
💡 家庭での工夫、4つのポイント
- 朝の準備は、時間に余裕を持ったスケジュールにする
- 「早く」ではなく「あと5分だよ」と具体的な見通しを伝える
- スピードより、できたこと・取り組めたことを認める
- 単純作業は、区切って少しずつ進められるようにする
それぞれの工夫について、もう少し具体的にお伝えします。
時間に余裕を持ったスケジュールは、朝の支度時間を普段より10〜15分早める、といった形で無理なく取り入れられます。焦らせる場面自体を減らすことが目的です。
具体的な見通しを伝えるのは、「早く」という抽象的な言葉より、「あと5分だよ」「あと2問だよ」のほうが、お子さん自身が段取りを組みやすくなるためです。
できたことを認めるのは、スピードで評価され続けると、お子さんは「自分は遅い子」という自己イメージを持ちやすくなるからです。取り組んだ過程そのものに目を向けてあげてください。
一方で、「早いけれど雑になりやすい」タイプのお子さんには、少し違ったアプローチが助けになります。
- 終わったら「一度読み返す」ことを、ゲーム感覚で習慣にする
- 書いた数字や文字を、指でなぞりながら確認する練習をする
- 「早さ」だけでなく、「正確にできたこと」も一緒に認める
お子さんがどちらのタイプに近いかによって、工夫の方向性は変わってきます。日頃の様子を見ながら、合う関わり方を探ってみてください。
大切なのは、お子さんを急がせることではなく、そのペースや持ち味で力を発揮できる環境を一緒に整えていくことです。
学校にお願いできる配慮、そして専門家への相談
家庭での工夫だけでなく、学校の先生に特性を伝え、配慮をお願いすることも大きな助けになります。「合理的配慮」という言葉を使うと、先生にも意図が伝わりやすくなります。
学校にお願いしたい配慮の例
- テストや作業の時間を、少し多めにもらう
- 板書をノートに写す代わりに、写真撮影を認めてもらう
- 宿題の量やペースを、無理のない範囲に調整してもらう
- 「急いで」と声をかけず、本人のペースを尊重してもらう
- 早く提出できるタイプには、提出前に見直す時間を設けてもらう
- ケアレスミスが多い場面では、指差し確認を促してもらう
すべてを一度にお願いする必要はありません。お子さんが特に困っている場面から、一つずつ相談してみるとよいでしょう。「合理的配慮」の相談の仕方については、別記事でも詳しくご紹介しています。

一人で抱え込まず、スクールカウンセラーや専門家に相談することも、大切な選択肢の一つです。ご家族だけで頑張りすぎず、周りの支えを借りながら向き合っていく視点も大切にしてください。

今日からできる一歩を、一緒に考えませんか
専門家に話すことで、見えてくることがあります
まとめ
この記事のまとめ
- 処理速度は、単純な作業をこなすスピードや正確さを表す力です
- 「ゆっくり丁寧」と「早いが雑」の2つのタイプがあります
- 数値が低いことは「理解していない」ことを意味しません
- 家庭・学校・友達関係・習い事など、場面によって現れ方は異なります
- タイプに応じて、家庭・学校での工夫の方向性を変えることが助けになります
「ゆっくり」なその子のペースの中にも、ちゃんと積み重なっている力があります。
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元 少年鑑別所 心理技官(18年)
現職:子ども家庭支援センター

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