子供のいじめ被害が大きな話題になっています。
一般的にいじめ被害者の心のケアに関心が向きがちですが、いじめ加害者の自身やその親の苦労にはあまり注目が向きません。
自分の子供がクラスの友達をいじめていることを知ったら親は相当に動揺するでしょうし、子供に対して怒りの感情も湧くでしょう。
自分の子育てが間違っていたのではないかと後悔して落ち込んでしまい、絶望してしまうかもしれません。
しかし、自分の子供がいじめ加害に及んでしまったのであれば、今後二度と同じことをさせないようにしっかりと子供に向き合う必要があります。
そこで、本記事では、自分の子供がいじめ加害をしてしまったときの対応と向き合い方について詳しく解説します。
- 子供がいじめ加害を起こしてしまった
- いじめ加害をした子供への接し方がわからない
- 子供を厳しく叱っても同じことを繰り返してしまう
私の勤める相談室にもいじめ加害者の親御さんから相談が入ることがあります。経験に基づいたお話をしていきます。
子供のいじめの加害を知る
いじめ加害をした子供の親の多くは、自分の子供がいじめ加害をしていることに気がついていません。
子供は家の中では普段と変わらず振る舞っていて、学校で友達をいじめているといったそぶりを見せないためです。
そのため、「親が気づくのは大きな問題になってから」ということは少なくありません。
自分の子供がいじめ加害に及んでいないかどうかに気づくことができるかどうかが重要となります。
いじめ加害の実態
まずは、実際にいじめ加害が問題行動としてどの程度認知されているのか、その推移を確認していきます。
次の表は、「令和5年度犯罪白書」の「いじめに起因する事件 事件数・検挙・補導員数の推移」というグラフです。
「いじめ加害」の中でも、比較的大きな問題行動として認識された数を把握することができます。
平成25年をピークに減少傾向にありましたが、コロナ禍を開けて学校生活が元に戻った頃から問題行動の件数が増えていることがわかります。
その中でも、特に「小学生」と「高校生」の件数の増加が目立ちます。
子供のいじめ加害行動の兆候に気付く
子供がいじめ加害に及んでいるかどうか、その兆候に気づくポイントはいくつかあります。
- 周りの子供に対して攻撃的な言動をとる
- 仲間外れにしているエピソードを聞く
- 自分の物ではない学用品などを持っている
- SNSで悪口を書いている
- 親の前で急に素直に振る舞うようになる
毎日子供に接していると変化に気がつくことができにくいかもしれませんが、1〜4については意識しておくことが大切です。
また、5の「親の前で急に素直に振る舞うようになる」場合、子供は「何か悪いことを隠している」可能性があります。
そのようなときは、子供の様子を丁寧に観察したり、次で説明するように学校での様子を確認することが必要です。
学校の先生や周りの親から情報を得る
子供は自宅では良い子のように、いつもと変わらないように振る舞うかもしれません。
しかし、いじめ加害をしているのであれば、学校の先生や友達の前では行動や態度に変化が現れているかもしれません。
親は、時折学校の先生やママ友パパ友から、子供の家庭外の様子について情報を得るようにしましょう。
親の前では見せない、普段と異なる姿について教えてもらえるかもしれません。
先生や周りの親が、先ほど紹介した5つのポイントについて気にしているようであれば、いじめ加害を疑ってもよいでしょう。
いじめ加害に及ぶ子供の心を理解する
自分の子供がいじめ加害に及んだことがわかったとき、あなたは怒りが湧いたり、どうしていいか分からなくなって困惑したりするでしょう。
そうした感情のまま、一方的に子供を叱ったり怒鳴ったりしても効果はほとんどありません。
子供が同じ過ちを繰り返さないようにするためには適切な対応をとる必要があります。
そのためには、なぜ子供がいじめ加害に及んだのか、その原因について把握するなど、子供の心を理解することが大切です。
これをいじめ加害の「アセスメント」と呼びます。
まずは、子供の話をしっかりと聞いていくことが重要です。
いじめ加害に及んだ経緯や動機を探る
誰であっても、理由もなくいじめ加害に及ぶことはありません。
子供がなぜいじめ加害に及んだのか、その経緯や動機を詳しく聞きましょう。
このとき、親は子供の話に耳を傾けて、話を受け入れなければなりません。
思わずカッとなったりイライラしたりして怒りたくなってしまうかもしれませんが、そのときに怒りをぶつけてしまうと、子供は素直に自分の気持ちを話してくれなくなります。
何か言いたい気持ちをグッと堪えて、子供の話に耳を傾けて、いじめ加害に及んだ経緯や動機を聞き出し、子供の心を理解しましょう。
被害者との関係性を知る
子供がいじめ加害に及んだ被害者との関係性について押さえておくことも重要です。
子供がその被害者をいじめたのは何か理由があります。
子供に理由を聞けば、「その子にバカにされたから」「周りがその子をいじっていたから真似をしただけ」「その子に以前いじめられたからやり返しただけ」など、いじめに及んだ理由を教えてくれるはずです。
そうした理由を聞くと同時に、その子との関係性の変化についても話を聞くと良いと思います。
以前はどのような関係性だったのか、関係性がどのように変化していったのか、どのような出来事がいじめにつながるきっかけだったのかなどです。
子供から具体的に話を聞いていけば、その被害者との関係性の変化を理解することができ、いじめ加害に及んだ原因を突き止めることができるはずです。
学校の先生などから話を聞くことで客観的な情報を集めることもできます。
子供の心の状態を考える
いじめ加害に及んだ当時の、子供の心の状態を考えることも大切です。
いじめ加害に及んだ経緯とも関係してきますが、学校や家庭で何か出来事があって、子供の心が揺さぶられたり傷ついたりしていないか確認しましょう。
今回のいじめ加害の背景には、家族や友人関係においてストレスや不快な感情を溜め込んでいる場合があります。
そうしたストレスや感情の吐口として、自分よりも立場の弱い人をいじめようとするのです。
私の経験上、いじめ加害に及んだ男の子の場合、父親が高圧的かつ暴力的であり、家では父親の機嫌を損ねないように振る舞う一方で、学校では弱い者いじめをするようなケースが割と多くあります。
こうした子供は、父親の言動を「モデリング」している可能性もあります。
心理学用語である「モデリング」とは、他者の行動や態度を観察し、それを自分の行動や態度に取り入れる学習プロセスです。例えば、親や先生の行動を見て、それを自分の行動に反映させることで、新しい行動を習得したり、態度を形成したりします。
いじめ加害に及んだ子供への対応方法
親がいじめ加害に及んでしまった子供にどのように対応すれば良いのか、その方法について紹介します。
冷静になる
まずは、親自身が冷静になって、落ち着いて子供と向き合えるようになりましょう。
子供の加害行動を知ったとき、戸惑いや怒り、この先どうしたら良いのかという不安など、相当の動揺が生じます。
そうした状態では、何事も冷静に考えることができず、子供を怒鳴ってしまったり、一人で塞ぎ込んでしまったりと、適切な対応が取ることができなくなります。
一時的な怒りなどの感情を抑える方法としては「アンガーマネジメント」、気持ちを落ち着ける方法としては「マインドフルネス」が効果的です。
子供との対話のポイントを押さえる
親自身が冷静になることができたら、子供と向き合って話をしましょう。
なぜいじめ加害に及んでしまったのか、どうしたら二度と同じことをしないかという視点を持って、子供と話をしていきます。
その際気をつけてほしいのは、「非難や罰を与えるのではない」という点です。
子供と対話し、子供の話を傾聴し、子供の気持ちを尊重しつつ、問題を解決する方法を一緒に考えていきます。
子供の話を上手に聞く方法として「動機づけ面接」の知識が役立ちます。
被害者への謝罪の方法を考える
忘れてはいけないのは、いじめ被害を受けた子に対してどのように謝罪をしていくかという点です。
被害者対応は非常に難しいことです。
親が子供に直接謝らせたいと思っても、被害を受けた子やその親が謝罪を受け入れてくれるかどうかはわかりません。
被害者が謝罪を受け入れてくれない場合には、学校の先生などに相談してどのような対応を取ることが望ましいか検討することが必要です。
被害者対応において気をつけてほしいのは、「被害者が謝罪を受け入れないのはおかしい」などといった気持ちを、自分の子供に持たせないことです。
子供は自分のいじめ加害の責任を棚に上げて、反省・謝罪の気持ちは薄れていってしまうでしょう。
そうなると再びいじめ加害に及ぶリスクが高まってしまいます。
学校や専門家のサポートを受ける
親と子供だけで問題が解決できないようであれば、専門機関の相談を受けることがおすすめです。
子供が所属している学校の他、いじめ加害などの問題行動の悩みに対応してくれる機関に相談すると良いでしょう。
ここでは、次の3つの機関を紹介します。
- 学校
- 児童相談所
- 法務少年支援センター
学校(教員や学校カウンセラー)
学校でいじめ加害に及んでしまった場合には、学校の担任や学年主任、養護教諭などが問題解決に向けてサポートします。
学校は、まずは被害を受けた生徒の保護・支援を優先します。
一方、いじめ加害に及んだ生徒に対しては、自宅謹慎や学校の別の教室で生活するといった措置が採られますが、学校の方針が固まるまでは仕方ないと受け入れましょう。
しばらくすると、いじめ被害を受けた生徒に対する謝罪の方法をどうしていくかという話になっていきます。
担任や養護教諭などにサポートしてもらいながら、被害者対応を適切に行うことができれば、自分の子供も反省を深めて変化することができるようになります。
また、いじめ加害に及んでしまった子供自身が悩みを抱えているようであれば、学校カウンセラーに相談することもありです。
学校カウンセラーは、心理学の知識を用いてさまざまな悩みに対して支援してくれます。
もしも子供についていじめ加害以外にも、発達に関する悩み、家族関係の悩みなどがある場合には、学校カウンセラーへの相談が適切です。
児童相談所(児童心理相談員)
児童相談所は、各都道府県や政令指定都市に設置されています。
親による児童虐待や子どもの発達の遅れなどの相談に応じてくれるイメージがあるかもしれませんが、子どもの問題行動についての相談にも応じてくれます。
18歳未満の子どもについて対象としています。
ただ、最近は児童虐待の相談が増加傾向にあって、子どもの問題行動の相談については、なかなかすぐに対応できないケースも増えているようです。
そうした場合には、次の法務少年支援センターがおすすめです。
法務少年支援センター(心理技官)
法務少年支援センターは、法務省管轄の機関です。
主に県庁所在地にある少年鑑別所に併設されていて、子どもの問題行動についての相談に応じてくれます。
少年鑑別所の心理技官や法務教官が担当することになります。
心理技官が、親や子どもと面接や心理検査をして問題行動の原因を特定して、適切な対処法を助言してくれます。
そして、法務教官が、直接子どもと関わる中で、その子にとって必要な教育や助言してくれます。
少年非行の専門家に相談することができ、直接的な指導を期待することもできるため、一番お勧めです。
子供の成長と変化に期待する
ここまで、いじめ加害に及んでしまった子供への対応方法やサポートを求める機関などについて説明してきました。
周りの支援を得ながら子供に丁寧に働きかけることで、子供の変化を促すことができます。
ただし、子供はすぐに変わるものではありません。
もしかすると子供は再び同じようなことをしてしまい、親としてがっかりしたり裏切られたと感じて憤りを覚えたりするかもしれません。
そんなとき、忘れてはいけないことがあります。
それは、
子供は必ず成長し、変化する
という事実です。
子供が同じ過ちを繰り返したとしても、根気強く向き合って、周りの支援を得ながら関わっていくことで、必ず良い変化を促すことができます。
親はこのことを忘れずに、子供と向き合っていくようにしましょう。
過ちから学び、成長する機会として捉える
子供は、自分自身の過ちや失敗から学び成長するということを理解しましょう。
この過ちや失敗が子供の自己成長や気づきを促してくれます。
そして、子供はより良い方向に向かって進んでいきます。
子供の成長や変化を期待して、子供に接していくことが大切です。
子供との信頼関係を築くための努力を続ける
子供が良い成長、良い変化をするためには、親子の信頼関係が土台になります。
そのために、日頃から子供とのコミュニケーションを大切にしましょう。
「子供の話を聴く」ことを意識してください。
子供の気持ちに寄り添うことで、子供の視点に立って物事を考えて感じられるようになります。
また、子供を上手に褒めることも心がけると良いでしょう。
子供は親のことを信頼して、本音で話してくれるようになります。
まとめ
今回は、自分の子供がいじめ加害をしてしまったときの対応と向き合い方について説明しました。
いじめ加害をした子供を厳しく叱っても効果は薄いでしょう。
子供に対して、親がどのように向き合うかということが大切です。
ご相談や質問がある場合には、こちらまでどうぞ!
最後までお読みいただきありがとうございました。
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